千葉市美術館所蔵「新版画-進化系UKIYO-Eの美」
新版画は、江戸時代に目覚ましい進化を遂げた浮世絵版画の技と美意識を継承すべく、大正初年から昭和のはじめにかけて復興したジャンルです。
版元・渡邊庄三郎(わたなべしょうざぶろう・1885-1962)のアイデアをもとに、伝統的な技術を用いながらも画家たちの新鮮な感覚を重視して生み出された数々の優品は、アメリカを中心に国内外で広くファンを獲得してきました。
今や「shin-hanga」は、「ukiyo-e」とともに、世界の共通語になりつつあります。
本展は、千葉市美術館が誇る新版画コレクションから選りすぐった約120点で構成されます。
橋口五葉の《浴場の女》や伊東深水の《対鏡》といった最初期の初々しい傑作から、川瀬巴水の情感豊かな日本風景、吉田博の精緻な外国風景、山村耕花や吉川観方による個性的な役者絵を経て、昭和初期のモガを鮮烈に描いた小早川清《近代時世粧》に至る、新版画の成立から発展形への歴史をたどることができる充実の内容です。
美人・風景・役者の各ジャンルの花形作家たちの競演と、伝統技術の粋を革新的な表現の煌びやかな融合をぜひご堪能ください。
本展は、下記店舗でも開催いたします。
■会期:2021年9月15日~27日 ■会場:大阪高島屋 7階グランドホール
『東京十二ヶ月』は、大正9年12月から翌年10月にかけての写生にもとづく連作です。12点が予定されていましたが、正円の4点と正方形の1点のみで終了しました。
《谷中の夕映》は、夕陽を受けてほの赤く輝く五重塔を描いています。巴水は、ちょうどスケッチを終えた時に鐘の音が響き渡り、思わず襟を正したと回想しています。
吉田博は、大正10年に渡邊庄三郎のもとで《帆船》三部作(朝日・日中・夕日)を手がけましたが、関東大震災で版木のすべてと作品の大半を失いました。
5年後、吉田は私家版において再びこの画題に取り組み、サイズをやや拡大して6点に展開しました。
版の絵であることを強く主張する渡邊版に対して、私家版では時間のヴァリエーションを増やしながらも色の明度や彩度の幅を狭めてより静謐な表現とし、色調や光のわずかな違いに視線を促すようです。
伊東深水の新版画第一作。
原画を単純化して黒と赤、肌の白の三色が映える構成とし、陰影を表すかげ彫り(鋸歯状の刻み)を施しました。
特別に取り寄せた上質な紅を三、四度重ね、背景にはざら摺り(わざとバレンを傾けてその軌跡を見せる摺り)を大胆に入れるなど、摺りにも工夫が凝らされています。
《対鏡》は、彫刀とばれんによる、肉筆ではない「版の絵」であることを前面に押し出し、作家が語る「黒髪と赤い長襦袢の間に覗いている襟足の美しさ」を存分に伝える名作となりました。
『近代時世粧』は、昭和5年から翌年にかけて制作された、同時代の女性風俗を描く6点シリーズです。小早川清の描く女性には独特の際どさや生々しさがあり、本作でもその本領が発揮されています。
とりわけ著名な《ほろ酔ひ》は、断髪や肌を大胆に見せた洋服、煙草、指輪、カクテルといった当時のモダンガール(モガ)のアイテムをちりばめるとともに、描かれた女性の危うい心模様をリアルに感じさせ、それが本作を時代の肖像画としている理由と思われます。
豊かに流れる黒髪の圧倒的な存在感や女性の清雅なたたずまいが印象的な、五葉の私家版を代表する1点。
モデルは五葉がよく描いた小平とみで、五葉はロセッティが描くような「象牙の首」の女性を後輩に探させ、美校でモデルをしていたとみを見出したとの逸話が残っています。
本作の女性のポーズにもロセッティ《レディ・リリス》からの影響が指摘されていますが、表現自体は、写生を浮世絵の簡潔な墨線に融合・昇華したものといえるのではないでしょうか。
※全て千葉市美術館所蔵
詳細は、日本橋髙島屋S.C. ホームページをご参照ください
https://www.takashimaya.co.jp/store/special/shinhanga/index.html