2024年11月19日

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【連載】富裕層ビジネスの世界 イベントから名店のアテンドまで徹底サービスのファミリーオフィス

Photo by M. B. M. on Unsplash

花火大会から花見までフルアテンド

新型コロナウイルスが流行する以前、まだ東京湾の花火大会が開催されていた時のこと。東京湾にはたくさんの屋形船が停留し、その中に1隻のクルーザーも停泊していた。このクルーザーは、ファミリーオフィス、ワンハンドレッドパートナーズを運営している百武資薫さんと20年来の付き合いがある顧客が所有するもの。百武さんの紹介で購入したもので、この日は所有者の富裕層一家に加えて、友人家族など総勢20人が乗っていた。

花火大会に合わせ、百武さんは綿密な準備と調整を行ってきた。花火が最も良く見える停泊場所の抽選に応募したり、船内で乗船者を楽しませるようイベントを催したりと、さまざまな趣向を凝らしていたのだ。料理は当然、高級ホテルのオードブル。高級シャンパンやワインも振る舞われ、乗船客たちは、イベントに花火にと大満足で帰路についたという。

花火大会だけではない、春は隅田川で花見、秋は京都で紅葉狩りなど、各種イベントで富裕層のニーズをくみ取り、ホテルの手配から場所の確保、酒や料理の手配、そして富裕層たちが喜ぶイベントまで催す徹底ぶりだ。

看板もない知られざる名店にご案内

もともとは花街だったものの、今はマンションなどが建ち並ぶ住宅街の一角に、少し古風ではあるものの、何の変哲もない一軒家がある。じつはこの家、誰もが知っている一流企業の社長や、銀行の頭取、そして起業して巨額の資産を保有する富裕層が足繁く通う店なのだ。

しかし、看板もかかっていなければ、表からは一切、店だとは分からない。まさに秘密の隠れ家といったところで、当然、秘密も徹底して守られている。玄関で他の客とすれ違うこともなければ、店を出るときもそれぞれ別の出口から。誰が来ているのか、誰と会っていたのか、全く知られずに利用することができるわけだ。隣の部屋の声も聞こえないし、当然、店のスタッフの口は堅い。そういった点が富裕層の絶大な支持を集めている。

それだけに、とにかく予約がとれない。こうしたときこそファミリーオフィスの出番だ。店と長い付き合いを続け、優先的に席を取ってもらえる関係を築いているからだ。人気店であっても、富裕層の急な依頼であっても、迅速に対応できる。そんな店を多数抱えている。それがファミリーオフィスの強みなのだ。

女性の紹介にもニーズが……

ファミリーオフィスには、時に変わった依頼も舞い込む。別のファミリーオフィスを運営する男性は、「女性を紹介してほしいという相談が意外に多い」と明かす。しかしそこは富裕層。秘密だけは絶対に守りたい。そこで、口の堅い芸者や、銀座のホステスなどを紹介してほしいといった依頼が寄せられるというのだ。

この男性によれば、「芸者の世界では、まだ『旦那制度』が残っており、誰もが知っている上場企業の社長たちが旦那になっている。芸者にしろ、ホステスにしろ、仕事で必要な着物やドレスを始め、マンションに生活費まで賄ってあげている富裕層は少なくない」と明かす。

だが、これも時代の変化と共に、徐々に変わってきているという。

「例えば芸者の場合、以前はかかる費用を全て丸抱えしていたものの、今は着物は誰、帯は誰、踊りの会の費用は誰と、複数の旦那がそれぞれ負担するケースも増えてきた。富裕層といえども、多額の費用全てを賄うことができなくなってきたのだろう」(ファミリーオフィス運営者)

しかし、そうした依頼をする人たちも「徐々に少なくなってきた」(同)という。

「女性に関する依頼をしてくるのは、やはり60代以上。多額のお金が必要なのもあるが、最近の若い富裕層はそもそも女性に対する関心が薄れてきている。特に、最近上場して富裕層になった若いIT企業経営者などは、『女性より、新たな企業を立ち上げたり、投資をしたりといった方がよほど楽しい』などといって、いつも仲間で集まって投資談義をしている」(同)

株主優待の“お手伝い”も

ファミリーオフィスに寄せられる変わった依頼という意味では、「株主優待をどうにか処分してもらえないか」というものもあるという。というのも、富裕層は多くの金融資産、特に株を保有しており、ものすごい量の株主優待が送られてくる。その処分に困り果てて買い取りを要請しているというわけだ。

例えば、別のファミリーオフィス運営者によれば、配当だけで年間10億円程度の顧客は少なくない。だから、株主優待もものすごい。チケットのようなものであればいいが、販売している商品などを優待にしている企業もあり、「倉庫がいっぱいになってしまう量」(ファミリーオフィス運営者)だという。

そうした人には、専門の買取業者を紹介し、半年に1回買い取ってもらっているという。買取額は1回につき数百万円に上るというから捨てるのはいかにももったいなく、「喜んでもらっている」とこの運営者は語る。

このように、ファミリーオフィスには、資産運用のようなお金にまつわるものだけでなく、ありとあらゆる依頼や要望が寄せられる。中には、前述したような変わったものもあるが、そうしたものも含めて一つひとつに丁寧に応えていくのだ。しかも無料で、だ。

「あらゆるニーズに丁寧に応えていくことで顧客の信頼を勝ち取っていく。その結果として、大きな金額の資産運用のアドバイスを任され、大きなフィーを頂戴する。そのためには長い時間がかかるが、それこそがファミリーオフィスだ」と百武さんは語る。