<ストレポ2月号掲載>早期復活への経営戦略の命題
百貨店業界は大きな転換期を迎えている。未だ猛威を振るっている新型コロナウイルスは、百貨店各社の業績に甚大な影響を及ぼし、消費環境並びに生活者の価値観に劇的な変化をもたらした。5年先、10年先に想定された劇的変化かもしれないが、百貨店各社各様に劇的変化に適応していくための新たな百貨店モデルの構築並びにグループのあるべき姿の実現に向け、今まで以上に大胆な変革に挑戦し、スピードを上げて進めていかなければならない。
※この記事は、月刊ストアーズレポート2021年2月号に掲載する特集「早期復活への経営戦略の命題」(全19ページ)の一部を紹介します。購読される方は、こちらからご注文ください。
2021年は、業績の早期回復と再成長に向けて大きな一歩を踏み出していく年になる。J・フロントリテイリング、髙島屋、三越伊勢丹ホールディングス、エイチ・ツー・オーリテイリングの大手百貨店では、現行の中期経営計画を取り下げ、21年度から一斉に新たな経営計画が始動する。各社の新経営計画の具体的内容は21年2月・3月期の決算発表時に公表される予定だが、その根幹や方向性は昨年の20年度第2四半期決算説明会で明らかにしている。大都市、地方都市を問わず百貨店のビジネスモデル改革は待ったなしで、ここにはデジタルの活用が不可欠だ。加えてリアル店舗の価値の磨き上げを前提にしたオンラインとのシームレス化(OMO)の構築も欠かせない。それらは多くの百貨店に共通する命題でもある。
■J.フロント リテイリング
DX軸にビジネスモデル変革に拍車 パルコとのシナジー本格創出カギ
J・フロントリテイリング(JFR)は、21年度(22年2月期)に2017年度から推進してきた中期5カ年経営計画の最終年度を迎えるはずだったが、新型コロナウイルスの影響による劇的な環境変化によって中期計画の前提条件が崩れたため、修正して21年度から新たな経営計画に移行する。4月に開催予定の20年度決算発表時に「10年後のあるべき姿と新中期3カ年経営計画」の詳細を公表する予定だが、昨年10月に開いた21年2月期第2四半期決算説明会で、「グループの完全復活と再成長」に向けた重点的取り組み方針を明らかにしている。「経営構造改革」、「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」、そして20年3月に完全子会社化した「パルコとのシナジー本格創出」で、この重点施策3項目の具現化が「完全復活期」と位置づけている新中期計画の鍵を握る。
■高島屋
「まちづくり戦略」の進化に注力 拠点開発と事業開発に総力を結集
今年1月に創業190周年を迎えた髙島屋は、コロナ禍で20年度(21年2月期)から始動しようとしていた中期3カ年経営計画の前提条件が変容したため、21年度から新たな中期計画をスタートさせる。具体的な施策は今年4月の20年度決算発表で開示する予定だが、昨年10月に開いた21年2月期第2四半期決算説明会で、コロナ禍における喫緊の経営課題と、国内百貨店業、商業開発業、金融業の各々の主力事業の方向性を示した。これまでグループ総合戦略と位置づけて総力を挙げて推進してきた「まちづくり戦略」の進化を基軸にした、国内外での商業開発業の拡大、百貨店の再生、第3の柱と位置づけている金融業の成長戦略が、創業200年に向けた新たなグループモデルの創造の要諦であろう。
■三越伊勢丹ホールディングス
人と店舗とデジタルを掛け合わせ 新時代のプラットフォーム確立へ
三越伊勢丹ホールディングスは、2019年度から、IT・店舗・人の力を活用した「新時代の百貨店」(プラットフォーマー)の実現を目指した3カ年計画を推進してきたが、コロナ禍で取り巻く環境が劇的に変化したことから、現行の中期計画を見直し、10年後の「あるべき姿」を明確にした長期計画を策定したうえで、21年度から新たな3カ年計画に着手する。業績を回復基調に転換する短期的視点と、持続的成長に向けた資産の組み替えや事業ポートフォリオの見直しを含めた長期的かつ抜本的な改革に取り組んでいく考えだ。具体的な内容の公表は今年5月まで待たなければならないが、昨年11月の21年3月期第2四半期決算説明会では、成長戦略と構造改革の軸は変わらず、「店舗とデジタルを活用した三越伊勢丹グループならではのプラットフォームの確立」と「今まで以上の事業構造改革、ビジネスモデル改革、コスト削減の徹底」を挙げている。
■エイチ・ツー・オー リテイリング
関西ドミナント化戦略を深耕へ 顧客・データ・サービス起点に転換
エイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)は、2015年度から推進している10カ年経営計画「GP10(グランプリテン)―Ⅱ計画」に基づき19年度から21年度まで「フェーズ2」(中期計画)に着手していたが、コロナ禍で取り巻く環境が劇的に変化してきたことから、現中期計画を取り下げ、21年度から新しいビジネス構造に向けた長期展望に基づく新・中期経営計画を始める。具体的内容は今年5月に公表される予定だが、昨年11月に開いた21年3月期第2四半期決算説明会で、荒木直也社長は、グループの今後の方向性と構造イメージ、並びに新中期計画の重点ポイントを明らかにしている。この根幹は「店舗・商品起点」から「顧客・データ・サービス起点の新しいビジネスモデル」への転換だ。実現に向けては、リアルとデジタルの融合によって「いつでも、どこでも顧客とつながり続ける」関係づくりを具現化していく、いわば同グループならではの「OMO(オンライン・マージズ・ウィズ・オフライン)ビジネスモデル」の確立が鍵を握る。
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