ファンの拡大と認知度の向上を狙い“使い合う”大丸梅田店と大阪エヴェッサ
≪連載≫百貨店とスポーツ団体が描くウィンウィンの構図 第1回 大丸梅田店×大阪エヴェッサ
地域密着で共存共栄を――。主に郊外や地方に位置する百貨店とスポーツ団体の協業が活発だ。ともに、地域密着戦略が生命線。集客力で勝る大都市の百貨店やスポーツ団体に対抗するためには、地域でのプレゼンスやロイヤルティを高め、〝足元〟を固めなければならないからだ。ただ、単独では限界がある。アライアンスの輪を広げ、共創で新たな〝入口〟を構えなければならない。百貨店とスポーツ団体が手を取り合えば、百貨店にとっては日頃は接点が少ない10代や20代、30代に足を運んでもらう機会となり、スポーツ団体にとっても認知度の向上や新たなファンの開拓などに繋がる。「百貨店とスポーツ団体が描くウィンウィンの構図」では、タッグがもたらす成果を追う。第1回は、大丸梅田店とプロバスケットボールリーグ「Bリーグ」の大阪エヴェッサだ。
注)コロナ禍を考慮し、2020年12月9日にビデオ会議システム「Zoom」で取材しました
【写真】大丸梅田店の福袋で、大阪エヴェッサの選手らによるバスケットボール教室を楽しむ子供達
■福袋や動画でコラボレーション
――まずは、協業を決めた経緯や狙いなどを教えて下さい。
大丸梅田店の営業推進部販売促進担当、松吉研治氏(以下、松吉) 「当店には30代や40代をはじめとする次世代顧客の獲得が重要で、大阪エヴェッサさんに白羽の矢を立てました。主な取り組みとしては福袋が挙げられます。初めて一緒に企画した福袋は2018年用で、選手によるバスケットボール教室や記念撮影会、サイン会、ホームゲームをペアで観戦できるチケットを盛り込み、小学1年生から6年生までの親子(20組・40人)を対象に、税込み5000円で販売しました。同様の福袋は2020年用も手掛けました」
「また、2020年10月26日には『大阪らしさも、おいしさも満点! 食いだおれの街』と題し、大阪エヴェッサのエリエット・ドンリー選手と駒水大雅ジャック選手に大丸梅田店の食品売場で購入できる“大阪の味”を試食してもらい、動画で撮ってYouTubeへ投稿しました。具体化した企画に限らず、大阪エヴェッサさんとは定期的に話しており、今後はどんなモノを販売するかなども検討しています」
大阪エヴェッサの戦略室シニアマネージャー、櫻井亮氏(以下、櫻井) 「最終的な目標は認知度の向上です。Bリーグやマーケティングリサーチ会社の調査によれば、大阪エヴェッサの大阪府内における認知度は20~30%にとどまります。コンテンツには自信がありますが、その上昇には地域の小売業者との連携も必要と考え、百貨店や家電量販店、ファッションビルと組んできました。中でも大丸梅田店さんは最も前向きに取り組んで頂いています」
――福袋や動画の反応はいかかがですか?
松吉 「18年用は完売、20年用は新型コロナウイルスに関する報道が出始めた時期でもあり、完売しませんでしたが、総じて反応は良いです。プロのバスケットボール選手と接する機会があるのは、特に子供にとって喜びですからね」
櫻井 「大阪エヴェッサは小学生や中学生を対象とするバスケットボールスクール、より専門的で18歳以上を受け入れるバスケットボールカレッジなどを運営していますが、生徒の数は約2000人にのぼります。しかし、将来のファンを育成するためには、バスケットボールと接点がない人を取り込まなければなりません。その点で、大丸梅田店さんとの協業にはメリットがあります。単独の時とは異なる層にリーチできますからね」
――福袋のバスケットボール教室には、初心者も参加します。場所や内容は、どう決めたのでしょうか。
櫻井 「大阪エヴェッサを運営するヒューマンプランニングが、おおきにアリーナ舞洲(大阪府此花区)と定期建物賃貸借契約を結んでおり、場所は自由になります。内容はスクールのノウハウを生かし、そのコーチが子供のレベルに合わせて決めました。実現していませんが、恐らく大人向けのバスケットボール教室も“刺さる”のではないでしょうか」
――動画については、いかがですか。
松吉 「趣旨としては、大阪エヴェッサさんの協力を得ながら、地域に貢献したい、大丸梅田店の食品売場をPRしたいと考えました。しかし、ただ大阪エヴェッサさんの選手が登場しても、内容として面白くありません。海外の経験が長く、大阪の味をあまり知らない選手を起用し、“初めて”の反応を紹介して、視聴者の関心を引き出せるように工夫しました」
――少し意地が悪い質問です。動画は1分21秒と短く、大阪エヴェッサさんが公式のチャンネルで投稿する動画に比べて再生回数も少ない印象ですが、その原因や効果などをどう捉えていますか。
松吉 「エリエット・ドンリー選手と駒水大雅ジャック選手はシャイで、コメントが少なめだったのは事実です(笑)。編集で尺は短くなってしまいました。反応も少ないですが、大丸梅田店の食品売場と大阪エヴェッサさんのルーキーを紹介できましたから、PRの仕方を今後の課題と受け止めています。また、大阪エヴェッサさんとは現時点でスポンサー契約に至っていません。一歩踏み出せば、もっとPRできるのではないかと考えています」
櫻井 「Jリーグと比較すれば金額は1桁違うので、ぜひ検討して下さい(笑)。コロナ禍によって、協業は小休止しています。お客様も外出を控えていますし、『3密』を避けなければなりませんからね。コロナ禍が収束すれば、大丸梅田店さんにオフィシャルショップを出す、選手の『1日店長』なども考えられます」
■今後は相互送客に繋がる施策も検討
――大阪エヴェッサさんは、百貨店と組む上でのハードルを感じていませんか?
櫻井 「特にハードルはないですし、商談はスムーズです。ただ、仮にオフィシャルショップを構えるとすれば、消化取引の条件などを詰めなければなりません。郊外のショッピングセンターなどは無料で出させてくれる時もありますが、大丸梅田店さんは大阪の一等地に位置しています。そうはいかないですからね。協業は、続かなくなってはダメです。そして続けるためには、お互いにメリットがなければなりません。大阪エヴェッサとしては、動画でギャラを得ていますし、福袋の売上げの一部も頂いています」
――動画によるPRでは、大阪エヴェッサさんがノウハウで先行しています。他の企業とも積極的にコラボしていますが、当たった企画はありますか?
大阪エヴェッサのマーケティング部広報PR課、田中美紗紀さん(以下、田中) 「大阪王将さんとコラボした動画は目に見える効果が表れました。合田怜選手と橋本拓哉選手を『食レポロケをします』と呼び出し、最終的には大阪王将さんの『ゴチ餃子』(餃子の引換券)を買わせて視聴者にプレゼントするというドッキリですが(笑)、大阪エヴェッサと大阪王将さんのツイッターのアカウントのフォローを応募の条件にしたところ、かなりフォロワーが増えました。ポイントは、ストーリー性です。わざとらしい、不自然だと成果は望めません」
――動画のクオリティ、エンターテインメント性が高いですが、外注でなく自前で制作しているのですか?
田中 「動画などを制作するチームを擁しています。それも強みですね。近年は有料の動画を配信しており、収益源の一部を担っています」
――コロナ禍ではすぐに実行に移すのが難しいかもしれませんが、温めている腹案などがあれば教えて下さい。
松吉 「今年はBリーグの試合がホワイトデーに開かれるため、送客に繋がる企画を考えていました。スポーツ団体とのコラボでは、恐らく歳時記のマーケットが有望です。試合への送客も、百貨店としての役割ではないでしょうか。オフィシャルショップの常設には、歩率や仕入れの条件、人件費などのルールが横たわります。まずは期間限定で運営できればと思っています。大丸梅田店が舞洲アリーナに出ていく方法もあります。コロナ禍で断念しましたが、オリジナルのショップである『ウメダチーズラボ』の商品に選手の顔や背番号を付けて販売する構想も描いていました。大丸梅田店から舞洲アリーナまでは30分程度ですが、シャトルバスを運行してもいいかもしれません」
――百貨店業界では、担当者が異動すると協業が立ち消えてしまうケースが少なくないです。継続していくための対策については、いかがですか?
松吉 「確かに異動は避けられませんが、いずれスポンサー契約を結べれば、重要な仕事としてバトンを渡せるはずです。今までの取り組みは、大丸梅田店のブランディングにとって間違いなくプラスです。その効果を倍増させていきたいですし、知恵を出し合ってウィンウィンを目指します。大丸松坂屋百貨店は、それぞれの地域の街や人々の課題をお客様と一緒に考え、応援していく社会貢献へのプロジェクト『Think LOCAL(シンクローカル)』を推進しています。個々の店舗は独立採算制ですし、グループの力を生かしながら、スポンサー契約も含めて大阪エヴェッサさんとの協業を大きくしていきたいです。さらには、Bリーグとのコラボも視野に入れています」
――大阪エヴェッサさんも、大丸梅田店との協業に発展性を感じていますか。
櫻井 「広く知られている通り、大阪ではプロ野球の阪神タイガースが圧倒的な支持を誇ります。野球だけでなく、サッカーやバレーボールなどもライバルです。競合は激しいですが、一定のマーケットを取れれば、大きく伸びられると確信しています。大丸梅田店さんとは小さいことから積み上げ、一緒に地域に貢献して、ファンを開拓していきたいです。コラボは年に1回や2回からでも構いませんが、スポンサー契約を結んでもらえると、“目線”が揃うのではないでしょうか。大阪エヴェッサのファンの中心は20~30代、男女の比率は半々で、Bリーグの他のクラブも同じです。2016年に誕生したばかりですから、リーグも客層も若く、老若男女が気軽にプレーできるからか、男女の偏りも少ない。大丸梅田店さんには、こうしたデータも上手く使って欲しいです」
松吉 「20~30代の若い男女にリーチできるのは魅力ですし、協業を継続していきたいです」
■地域貢献を通じて大阪での存在感を高める
――最後に、それぞれの営業や活動に関する目標を教えて下さい。
松吉 「大丸梅田店は、大阪で最大のターミナルに居を構えており、多くの大型商業施設と競合しています。生き残るためには、特徴化が不可欠です。大阪エヴェッサさんの力を借りて、『スポーツ振興』や『地域貢献』といった特徴を磨き上げていきます。特徴化では、サブカルチャーにも力を入れています。漫画やアニメ、ゲームなどです。昨年の7月22日~8月3日には『TVアニメ 鬼滅の刃 全集中展』を開き、好評を博しました」
櫻井 「Bリーグは、その集客力や収益性から日本最強のアリーナスポーツと自認しております。その中で大阪エヴェッサは『来て、見て、楽しい』というエンターテインメント性が評価されています。試合を見てもらえれば、必ずハマる自信があります。まだ来ていない人に、どうやって来てもらうか。選手、チアリーディング、スクールと多くのコンテンツを抱える強みを生かし、色々な企画を手掛けて地域に根差していくとともに、認知度が高い大丸梅田店さんと組み、客足を増やしていきたいと考えています」
「同時に、バスケットボールスクールの運営や慈善活動などを通じて地域にも貢献し、大阪での存在感を高めていきます。大阪エヴェッサと大丸梅田店さんでは、ステークホルダーが全く異なります。お互いに良い意味で“使い合い”、相乗効果を発揮していきたいです。競技面では、想定した勝率に届いていませんが、チームのクオリティは落ちていませんし、多くの有望なルーキーと契約しましたから、後半戦に期待して下さい」
(聞き手・野間智朗)