2020年冬 歳暮特集 キーワードは「イエナカ」と「贅沢」
2020/12/01 5:00 pm
キーワードは「イエナカ」と「贅沢」だ。百貨店業界の各社は今年の歳暮商戦で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「巣ごもり」に照準を合わせ、自宅で全国の老舗や名店、優れた食材などの味を楽しめるギフトを強化した。「3密」を避けるため、中元商戦に続き利用者が増加するとみられるインターネット通販サイトの品揃えも拡充。ネット通販が不得手な人に向け、パソコンやスマートフォンの画面を共有し、操作をサポートする百貨店もある。店舗のギフトセンターでは、中元商戦と同様、入口に消毒液を置いたり、通路や待合所の席の間隔を広げてソーシャルディスタンスを確保したり、カウンターに飛沫防止用のビニールシートを張ったり、感染防止策に余念がない。10月にネット通販、11月にギフトセンターを立ち上げる百貨店が多いが、ともに序盤戦は好調。とりわけネット通販は前年を大幅に上回る。帰省の自粛を含めた巣ごもりを追い風に、歳暮商戦のムードは明るい。
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帰省や旅行の自粛で伸びるネット通販に注力
「今年は〝おうちごはん〟で需要が増える、名店の本格的な味を手軽な調理で楽しめる惣菜や個食用を取り揃えた」(小田急百貨店)、「お世話になった方、遠方で暮らす家族や友人に、いつもより少し贅沢な〝おうち時間を贈る〟需要に対応する品揃えを強化した」(京王百貨店)、「中元商戦では『巣ごもり応援』が好評。現在も外出の自粛は続いており、歳暮商戦では『イエナカ時間×ごちそう』をテーマにした」(そごう・西武)、「帰省や旅行を控え、自宅で過ごす時間が増えそうな年末年始を想定し、お取り寄せグルメを拡充して〝おうちで過ごす時間を楽しむ〟ための、ちょっと贅沢な美味しいギフトを提案する」(大丸松坂屋百貨店)、「〝おうちで贅沢なごはんを楽しむ〟ためのギフトを訴求する」(松屋)。
各社が「おうち」、「巣ごもり」、「イエナカ」といったシーンに照準を合わせ、「贅沢」や「ごちそう」を掘り下げる。当然、背景にあるのはコロナ禍だ。新型コロナウイルスの猛威は第3波の様相を呈しており、年末年始の帰省や海外旅行は自粛ムード。自家需要、贈答需要を問わず、家で過ごす時間を豊かにするモノに注目は集まる。そこに商機を見出す。
コロナ禍では、店舗に足を運びたくない人も少なくない。〝売り逃し〟を防ぐためには、ネット通販の充実化が不可欠だ。品揃えの特徴化はもちろん、特典を用意したり、使いやすさを追求したりして、購買意欲を喚起する。
品揃えの特徴化では「ネット通販限定」の開発が活発だ。京王百貨店はアイスクリームなど11種類からなる「クールデザート特集」、長期保存が可能な8種類の備蓄食品で構成する「防災備蓄品特集」(自宅用限定)を、大丸松坂屋百貨店は手に入りにくい各地の名品を送料無料で届けて産地を支援する「♯元気いただきますプロジェクト」を、それぞれ提供。松屋は初めてネット通販サイトで限定(11点)を出した。近鉄百貨店は限定を前年の約500点から約600点に増やし、阪急阪神百貨店は10月1日に立ち上げたデパ地下で人気のブランドのケーキを全国に届ける「CAKE LINK」から5種類を、「阪急」のれんで歳暮として販売する。
送料無料や割引などの特典も、客の争奪戦で威力を発揮する。小田急百貨店は昨年から、ネット通販サイトで「小田急のお歳暮」や「ご自宅用限定お買い得品」に掲載された商品を、10月20日~11月25日、11月26日~12月24日に税込み1万円以上で購入し、メールマガジンの配信を希望すると、それぞれで1000円分ずつ、最大で2000円分のクーポンをもらえるキャンペーンを展開。高島屋は3つの特典を打ち出し、税込み1万円以上の購入でカタログギフトをプレゼントする(抽選で3000人)ほか、高島屋のカードホルダーには税込み1万5000円以上の購入で1500ポイントを付け、「ユアチョイスギフト」を税込み2万5000円以上で購入すると、同ギフトのYAコース(税込み5500円)がもらえる(抽選で100人)。近鉄百貨店は、新規の登録者を含めた全てのネット通販サイトの会員に500円分のクーポンを配る(5000円以上の買上げで利用が可能)。
使いやすさでは、ネット通販サイトに不慣れな人をサポート。小田急百貨店は9月30日に導入した、グラフテクノロジーが手掛ける画面共有サービス「ウィズデスク ブラウズ」を用い、オペレーターが操作や注文を助ける。京王百貨店も同様のシステムを新規に採用した。そごう・西武は、ネット通販サイトで注文する方法を解説する冊子のページを1.5倍に増やし、コールセンターの人員も1.4倍に増やした。大丸松坂屋百貨店もコールセンターの人員を1.3倍に加増。東急百貨店は注文の方法を案内する動画を作成し、カタログに掲載するQRコードも増やした。
キメ細かい説明や質疑応答が可能な「ライブコマース」も、コロナ禍で有効な販促として広がる。早くからライブコマースに取り組む三越伊勢丹は11月14日、イラストレーター兼料理研究家の杏耶(あや)さんをゲストに迎え、バイヤーが歳暮のギフトを紹介した。
序盤戦は好調、トータルでも前年超えを狙う
一方、店舗のギフトセンターでは新型コロナウイルスの感染防止に努める。基本的な対策は中元商戦で講じており、大きな変化はないが、京王百貨店は新宿店と聖蹟桜ヶ丘店でQRコードを付けた番号札を配付。会場から離れてもスマートフォンで順番を確認できるようにした。阪急阪神百貨店は「阪神」のれんで、インターネットを介して予約や順番の確認が可能なサービスを採用。阪急のれんには中元商戦で導入しており、阪神にも広げた。
歳暮商戦の視界は明るい。牽引役はネット通販サイトだ。「10月の売上げは前年の1.8倍」(小田急百貨店)、「10月20日から約3週間の動向を踏まえると、トータルでは前年の1.5倍の売上げを見込む」(京王百貨店)、「11月初旬時点での売上げは前年の約1.5倍」(大丸松坂屋百貨店)、「11月4日時点での売上げは前年の約1.4倍」(高島屋)、「郵送や電話、FAXとの合算で10月の売上げは前年の約2.6倍」(東急百貨店)、「11月初旬時点での売上げは前年の1.1倍」(東武百貨店)、「11月5日に立ち上げたが、4日間の売上げは前年の約1.1倍」(松屋)、「売上げは前年比で2桁の伸長」(三越伊勢丹)、「10月の売上げは前年の約2倍」(近鉄百貨店)、「11月5日時点で売上げは前年比13.5%増」(京阪百貨店)と好成績が並ぶ。
10月下旬から11月上旬にかけて開くギフトセンターを合わせた数字も幸先が良い。そごう・西武は「10月の売上げは前年の1.5倍」、近鉄百貨店は「あべのハルカス近鉄本店の10月10日~31日の売上げが前年比26.4%増」、京阪百貨店は「11月5日時点の同日対比で全店の合計が約19%増」という。「トータルでは前年を超えると見込む」(京王百貨店)、「前年実績のクリアは可能」(大丸松坂屋百貨店)、「中元商戦と比べて好調な立ち上がりで、期待が持てる」(松屋)といった力強い声も届いた。
巣ごもりを追い風に、百貨店は歳暮商戦で〝前年超え〟を狙う。
■東京・大阪の主要百貨店の主なラインナップと差異化策■
高島屋
「メゾンミクニ」の「東京うこっけいとブイヤベース麺」 |
素材も製法も吟味を重ねた「至高の美味」、名店の逸品を高島屋だけの特別なギフトにした「名店とともに」、他にはない美味に挑戦した「挑む」といった百貨店らしい企画に加え、変化するライフスタイルや価値観を反映し、自宅で手軽に名店の味を味わえる「レストラン気分ギフト」や、「おうちで楽しむ物産展」をテーマに高島屋の「北海道展」、「九州展」、「東北展」の人気ギフトを特集する。
インターネット通販サイトではカタログ掲載品に加えて、「旅行気分で贅沢グルメ」、「テレワークのおとも」といったテーマのオンライン限定品も用意する。 |
三越伊勢丹
〈三越〉 |
テーマは「人が人を思うかけがえのない気持ち、変わらぬ気持ちを込めて、一年の終わりに三越伊勢丹の贈り物を」。日本各地の個性的なギフトを多彩に提案し、例年行っている美術館とのコラボも実施する。オンラインストアで店頭のような接客を可能にするため、客と双方向でコミュニケーションが取れるライブコマースを10月24日、11月14日に実施した。
〈三越〉「美味こそが元気の素」をテーマに、素材・製法・人という3つのポイントから価値を見出した「三越の三ツ星」、なかなか帰れないふるさとの名産品を紹介する「美味めぐり」などを用意する。 〈伊勢丹〉自宅使いでも贈り物としても特別な時間を味わえる商品を用意した「Made in kindness 思いからおいしさは生まれる」、冬らしさを感じるスイーツや惣菜を集めた「Winter Sparkle」といった切り口で展開。 |
大丸松坂屋百貨店 |
帰省や旅行を控え、自宅で過ごす時間が増えそうな年末年始を想定し、中元ギフトから続いているお取り寄せグルメを強化。家で過ごす時間を楽しむための、「ちょっと贅沢なおいしいギフト」を提案する。
インターネット通販サイトは限定商品を昨年の2.5倍に拡充。さらにオンライン限定企画として、普段手に入りにくい各地の産品を送料無料で届け、産地支援に繋げる「#元気いただきますプロジェクト」に参加する。新型コロナウイルス拡大の影響を受けた生産者支援を目的とした国の対策事業「品目横断的販売促進緊急対策事業におけるインターネット販売推進事業」の一環で、売り上げ減少が顕著な農林水産物の支援に寄与する。 |
そごう・西武
食の楽しみが広がる京野菜を届ける「冬の京野菜詰合せ・弐」 |
中元のテーマ「巣ごもり応援」が好評で、現在も外出の自粛傾向が続いていることから、歳暮は「イエナカ時間×ごちそう」をテーマに設定。日本各地のごちそうを特集し、その中でも素材にこだわった「日本の冬の美味」を新たに提案する。旬・希少性・産地にこだわり、「京野菜」、「日本海のぶり」、「越前がに」の3つの素材にスポットを当てた。またイエナカ時間の拡大で増えた自宅での料理を楽しむ人に向けて、素材そのものを贈り、料理時間も楽しんでもらえるギフトも用意する。そのほか、行った気分で各地の味が楽しめる「美味しいエールを贈ろう」特集など、イエナカ時間を充実させるギフトを展開する。
スムーズなウェブ注文に向けて、ウェブ注文の方法を説明した冊子のページ数を1.5倍に増やし、内容を充実させて歳暮カタログ送付時に同封した。コールセンターの人数も1.4倍に増員。 |
松屋
松屋限定の「ポンドール・イノ」の「シェフ特製ローストビーフ」 |
テーマを「会えないからこそ贈る」とし、コロナ禍で広がった「おうちで贅沢なごはんを楽しむ」ためのギフトを提案。直接帰省や挨拶ができない代わりに歳暮を贈るという需要に期待する。肉や海の幸をはじめとした百貨店クオリティの食材や、料亭・レストランの味など、自宅で贅沢な時間を過ごせるアイテムを目玉とした。中元で好調だった自宅配送限定商品も数を増やす。
初めてとなる、ネット限定商品が登場する。店頭で人気のブランドを揃えた。松屋カードを利用してインターネット通販サイトで購入すると、優待価格で提供される。 |
小田急百貨店 「皆美館」の「いろどり飯6食セット」 |
例年人気の全国から選りすぐった名店・レストランのプレミアムな商品のほか、「おうちごはん」需要で注目が高まる、本格的な味を手軽な調理で食べられる贅沢惣菜や個食グルメを取り揃える。簡単な調理で食べられる和食惣菜や、人気の高いハンバーグのバリエーションを増やした。個食グルメでは1人前の鍋の詰合せや電子レンジで加熱して食べられるご膳などが登場する。
中元時にインターネット通販サイトの操作に関する電話問合せが急増したことを受け、今秋にオペレーターが客の画面を確認しながら操作案内や注文サポートを行う「画面共有サービス」を開始。 歳暮で初めてサイトを利用する人も手厚くサポートする。 |
京王百貨店 |
「想いをむすぶ冬」をテーマに、いつもより少し贅沢な「おうち時間を贈る」需要に対応する品揃えを強化する。「冬のすごもり美食」や「あったか鍋三昧」、「イエナカ好適品(簡単・小分け)」などの特集を企画。中でも「イエナカ好適品(簡単・小分け)」は、単身者や共働き家庭、高齢者など幅広い層のニーズに合致し、近年伸長している領域で、少量ずつ簡単に調理できる商品を豊富に揃えた。インターネット限定として、近年冬でも需要の高いアイスクリームなどを集めた「クールデザート特集」なども展開する。
中元時にインターネット通販サイトの操作に関する問合せが急増したことから、今歳暮期から客のPCやスマートフォン画面を共有して操作をサポートするシステムを新規導入した。 |
東急百貨店 |
東急百貨店限定ギフトを集める「極味伝心」では、巣ごもり需要にも対応する老舗名店の惣菜や、味わいだけでなくビジュアルにもこだわった洋菓子など、バラエティー豊富に揃える。コロナ禍によって鍋を囲んで食べるシーンが減った状況を鑑み、「日本全国うまい鍋」特集で、1人前ずつ個包装した鍋料理を多彩に用意した。食べきりサイズで調理も簡単なため、ギフトだけでなく自家需要の取り込みも見込む。
インターネット通販サイトの申込方法をわかりやすく伝えるための施策に注力した。申込方法を案内する説明動画を作成し、カタログに同封する「ネットショッピングご利用ガイド」もより詳細な内容に変更。カタログにはサイトに繋がるQRコードの記載を増やした。サイトではギフトコンシェルジュによるおすすめ商品を紹介するページも公開している。 |
東武百貨店
「JA津軽みらい こみつりんご」 |
会えない時だからこそ気持ちが伝わるような、こだわりの品々を提案。また、近年好調に推移している「ご自宅用特別お買得品」も強化し、「プチ贅沢」をキーワードに、イエナカ時間を楽しめる商品を取り揃えた。「ストックフード」や「簡単調理」などをキーワードに、新しい生活様式を意識した商品も展開する。
中元時はギフトセンターへの来店を控えて、インターネット通販サイトで注文する客が昨年に比べ約2割増えたことから、今回初めてグラフテクノロジー社が提供する「画面共有サービス」を導入。ウェブ操作案内のサポートを強化する。 |
阪急阪神百貨店 〈阪急〉 上が「三戸精品」の「百年紅玉セット『りんご&ジュース』」、下が「京料理 六盛」の「京風甘鯛しゃぶしゃぶ」と「獺祭」の「獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分 遠心分離」 |
両のれん共通で、「食べきり個パック」特集として、多様化する生活スタイルや好みに対応し、近年人気が上昇している「少量・小分け」ギフトを多く揃える。
〈阪急〉「Hankyu PLATFARM MARKET」を中元に引き続き特集。うめだ本店が昨年10月から、食材の作り手が商品と共に集まり客と交流する同名のマーケットを月に1度開催しており、その商品を集めた。今年10月にスタートした、デパ地下の人気ブランドの冷凍ケーキを全国に配送する「CAKE LINK」も歳暮として注文できる。 〈阪神〉集まりづらい今だからこそ〝つながる〟をキーワードにした「心つながる贈りもの」特集で、「つくり手の想いや願いとつながる」、「地の魅力、良質な素材とのつながり」、「家族や友人と美味しくつながる時間」の3つの切り口から提案する。 関西の地で育まれ、永く愛され続けてきたものを集めた「おいしい関西」は、人気の定番の大阪の味や、一人一人が手軽に楽しめる個包装のギフトが登場する。 |
近鉄百貨店
近鉄限定の「宝月堂」の「MOCHI cube 15個入り」 |
今年は近隣の人へのギフトも手渡しではなく配送にする人が増えると見込み、新企画「近畿2府5県送料無料おすすめギフト」を実施。大阪府、京都府、奈良県、滋賀県、和歌山県、兵庫県、三重県を対象に、ビールやハムなど定番の品目から厳選した20点を期間中常に送料無料とする。同じく新企画「気持ちが伝わるちょっとした贈り物」では、歳暮としてだけでなく、お礼や日常のプチギフトとして使えるよう、これまでは取り扱いが少なかった1000円~1800円という低価格帯の商品を揃えた。
また、新型コロナウイルス感染拡大の影響から、衛生面で安心な小分け商品が注目されており、中元においても売上げが増えた小分けギフトを強化する。自宅で過ごす人が多いことから、自宅で特別感を楽しめるグルメとして近鉄限定商品を用意する。 |
京阪百貨店
「大山ハム」の「2020年DLG受賞 ハム詰合せ」 |
歳暮カタログの巻頭ページに「バイヤー推奨ギフト」として、特に百貨店担当者がお勧めする商品をピックアップして掲載。店頭でのディスプレイもこれらの商品を前面に打ち出して訴求する。インターネット通販サイトでも「ネット割」として、対象商品を10%、15%オフにする。
そのほか、こだわりの人気パティスリーの商品を揃えた「冬のスイーツコレクション」、食べ合わせが魅力的な「味くらべギフト」、近年ニーズが高まっている個食用アイテムを集めた「おいしさ少量パック」といった特集を企画した。 |