山梨県の百貨店・岡島、地元のホテルや酒蔵、学生を支援

2020/06/09 6:00 pm

政府が発令した緊急事態宣言を受け、百貨店業界では店舗の臨時休業や生活必需品を扱う一部の売場での営業が続いた。3月や4月の売上げは過去に例を見ないほど落ち込み、経営は厳しさを増しつつある。そうした中でも、地域住民の生活を支えるため、外出を自粛する人々の毎日に〝潤い〟を与えるため、さらには従業員を守るため、各社は食料品売場やインターネット通販を拠点に奮闘してきた。すでに緊急事態宣言は解除されたが、「ウィズコロナ」の時代を乗り切るためには、新たなビジネスモデルの確立が不可欠だ。その現場を追う。第7回は、山梨県の百貨店・岡島だ。雨宮潔社長に、コロナ禍やウィズコロナにおける〝舵取り〟を尋ねた。

 

岡島の雨宮潔社長

 

――新型コロナウイルスの感染者が急激に増加した頃の対応を教えて下さい。

「山梨県では3月6日に初の感染者が確認され、当社は翌7日~31日の営業時間を通常の午前10時~午後7時から午前10時~午後6時に短縮しました。県内の3月の感染者は7人と少なく、4月1日には時短を解除したのですが、4月は感染者が急増。20日~31日は、地下1階の食品売場およびテナントのスーパーマーケット『アマノパークス』のみの営業に切り替えました。当店が位置する中心市街地には、自動車を保有しない高齢者が少なくありません。食品の販売は地域のライフラインとして必要です」

「ただ、和洋菓子やパンなどの動きは鈍く、食品売場は4月30日までで一時的に閉鎖。5月1日~17日は生鮮品を揃えるアマノパークスに限り、お客様を迎え入れました。全館での営業の再開は、5月18日です」

――地域のライフラインを全うするとともに、宿泊客が減少する市内のホテルの支援にも乗り出しました。

「当社は『地域のインフラ』としての役割を追求しています。2月の後半には新型コロナウイルスに対する危機感を強め、地域に何か貢献できないか、模索し始めました。そして、甲府商工会議所と組んで3月中旬、宿泊の予約が激減した市内のホテルに『特別な弁当やスイーツを開発し、当店で販売しないか』と提案しました。在宅勤務や外出の自粛で、家庭では料理の負担が増大しています。時には、既製の弁当やスイーツを購入し、それを軽減して欲しいという狙いもありました」

「常盤ホテル、甲府記念日ホテル、ホテル談露館が参加してくれましたが、開発は難航しました。宿泊客に振る舞う料理よりも保健所のチェックが厳しく、容器の発注なども不慣れですからね。苦労の末に完成した9種類の弁当(2400円~5700円)やプリンなどのスイーツは、『買って応援 おうち de ホテル 人気ホテル グルメ&スイーツフェア』と題して販売。目的に共感した外商顧客が毎日のように注文してくれるなど好評で、売上げは4月8日~21日に約870万円を記録しました。これは430人が宿泊したくらいの金額です。4月の下旬に感染者が増えなければ、1000万円に届いたのではないでしょうか」

――地域貢献として、多くのメディアに報道されました。

「副次的な効果も表れました。山梨県で羽毛布団を製造する富士新幸から、『布団のカバーや枕に使う絹や綿の生地で作ったマスクを販売したい』とオファーが届きました。他の百貨店と同様、折込チラシの配布を中止しており、マスクを販売するという情報は『LINE@』で発信しただけなのですが、当日の開店前には約100人のお客様がいました。絹製は税込み3630円(2枚入り)、綿製は同2530円(同)と一般的なマスクよりも高額ながら、6月4日時点で約600セットが売れています。女性に支持され、絹製が圧倒的な人気です」

「弁当やスイーツ、マスクの販売を通じ、当社への期待感と手応えを得ました。地域貢献は単発で終わらせず、二の矢、三の矢と継いでいきます。二の矢は6月10日~16日に開く『買って応援、おうちde一杯! 山梨県地酒フェア』で、甲府商工会議所、山梨県酒造協同組合と組み、山梨県内の12の酒蔵を誘致。日替わりで酒蔵の人々が直接、地酒、おつまみ、スイーツなどを販売します」

「三の矢は、チャリティTシャツです。山梨にちなんだ商品を手掛ける、大学生らのプロジェクト『モモハナ』と協業。5種類のTシャツを作り、6月17日から2週間に亘り3000円で販売し、売上げの一部を県内の大学が名を連ねる特定非営利活動法人『大学コンソーシアムやまなし』に寄付します。デザインの1つには、地元のイラストレーターが描いた甲府市の景色を施し、『あの時、日常に戻りたい』と願いを込めました。あるいは、地元のシンガーソングライターの曲の歌詞を英語にしてプリント。『同じメッセージをまとって、一緒に頑張ろう』という気持ちを醸成します。Tシャツの製造も、地元のメーカーに依頼しました」

――他にもアイデアはありますか。

「近く、外商顧客向けにホテルのシェフが自宅で料理を振る舞うサービスを始めます。法事などでの利用を想定しています」

――すでに全館営業を再開し、安全・安心も徹底しなければなりません。

「マスクの着用、売場への飛沫防止シートの設置、エスカレーターのベルトの30分に1回の消毒などはもちろん、従業員や取引先の担当者には入館時に検温と体調をチェックするシートへのサインを求めています。6月3日に1階の化粧品売場に『ジル スチュアート』がオープンした際は、入口付近のイベントスペースを待機所として用いるなど、混雑を緩和する施策も講じています」

――ウィズコロナの時代では、百貨店業界も変化が必須です。岡島は、どう新しい百貨店像をつくり上げていきますか。

「私事で恐縮ですが、県内の高校に講演を依頼され、2年前に母校で講演した時の原稿を読み返しました。すると『テレワークの時代が来る』と書いてあり、期せずして的中した格好です。山梨県は東京都に近く、例えば甲府駅から東京駅までは特急で2時間ほどで、テレワークが可能な企業に勤める人にとっては、地価も含めて住みやすい。山梨県にとって、甲府市にとって、新たな住民を迎え入れる好機です。当社にとってもチャンスであり、今後はリアル店舗ならではの役割、キーワードを挙げれば『エシカル』、『プロの接客』などを追求し、それを生かしていきます」

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