百貨店、コロナ禍での「イエナカ消費」に照準 2021年中元商戦

2021/06/11 5:40 pm

もはや、右肩下がりではない――。6月下旬~7月上旬にピークを迎える中元商戦。百貨店業界の各社は昨年に続き、インターネット通販サイトへの誘導を含めて店頭のギフトセンターの「3密」を防ぎつつ、購買意欲を喚起する「新常態」だが、総じてムードは明るい。昨年の中元商戦や歳暮商戦では「コロナ禍で帰省できない、気軽に会えないからこそ、ギフトを贈ろう」という人々が増加。外出の自粛にともない「家の中で贅沢に過ごそう」とする人々の自家需要にも支えられ、売上げが堅調だったからだ。中でも、そごう・西武は歳暮商戦で、前年実績を上回った。数%のマイナスにとどめた百貨店は少なくなく、コロナ禍では大健闘と言っても過言ではない。中元や歳暮の市場は縮小を続けてきたが、いわゆる「イエナカ消費」は依然として旺盛で、商機は十分。各社は、百貨店らしい上質さや稀少性を深化させながら、イエナカ消費にも照準を合わせて品揃えを拡充し、中元商戦に吹く追い風を生かす。


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伸び代が大きいネット通販

コロナ禍での中元商戦や歳暮商戦で、各社の牽引役を担ったのはネット通販だ。いずれも、売上げが高伸長。三越伊勢丹は中元商戦も歳暮商戦も前年比2桁増、大丸松坂屋百貨店は中元商戦と歳暮商戦の合算で同31%増、阪急阪神百貨店は阪急うめだ本店の中元商戦が同39%増、歳暮商戦が同43%増、阪神梅田本店の中元商戦が同42%増、歳暮商戦が同45%増、そごう・西武は中元商戦が同3割増、歳暮商戦が同5割増、近鉄百貨店は中元商戦が同36.6%増、歳暮商戦が同43%増、東急百貨店は中元商戦と歳暮商戦がともに同5割増、東武百貨店は中元商戦と歳暮商戦がともに同18%増、京王百貨店は中元商戦と歳暮商戦がともに同4割増だった。

コロナ禍は依然として収束せず、各社は今年の中元商戦もネット通販を強化。品揃えやサービスをブラッシュアップするとともに、リアル店舗でもネット通販の利用を促し、さらなる拡販を狙う。

5月11日に三越、同14日に伊勢丹のネット通販サイトで中元の扱いを始めた三越伊勢丹は、動画で購買意欲を喚起する。バイヤーが厳選した100点の商品からなる「太鼓判100」の40点に動画を添付。同社は「長時間におよぶライブコマースより、動画の方が気軽に見やすい」と意図を明かす。ネット通販サイトには約2400点を揃え、うちネット通販サイト限定は三越、伊勢丹ともに約100点、送料無料は約1000点。他の約1400点の送料は全国一律で、550円または770円。

5月7日にネット通販サイトで中元の販売を始めた高島屋は「おうち時間充実ギフト」、「ご当地ギフト」などを特集。ネット通販サイト独自の切り口で、買上げに繋げる。高島屋のデビットカードやクレジットカードの保有者に限り、掲載された商品を税込み1万5000円以上購入すると、1500ポイントをプレゼント(7月5日の午前10時まで)するなど、ネット通販サイト限定の特典も3種類を用意した。ネット通販サイトでは約5000点の商品を取り扱い、うち送料無料は約1500点。

5月7日にネット通販サイトで中元の展開をスタートした大丸松坂屋百貨店は、さらに同31日に食品のバイヤーが動画で一押しの商品を紹介する「バーチャルギフトセンター」も開設。気になる商品をクリックすると、そのまま購入も可能だ。ネット通販サイトでは約2700点を揃える。

大丸松坂屋百貨店が構えるバーチャルギフトセンター

5月25日にネット通販サイトで中元の販売を始めた阪急阪神百貨店は、「阪急」と「阪神」で前年と同等の約1500点ずつを揃える。阪急の「赤いギフトカタログ」(約1000点)、阪神の「きいろのギフトカタログ」(約1000点)を10%オフ(清酒やワインなどは5%オフ)で販売し、全て送料無料だ。

5月13日からネット通販サイトで中元を展開するそごう・西武は、カタログからの“誘導”に注力。表紙をめくった場所に、ネット通販サイトの利用を促す文言、送料無料というメリットなどを載せた。ネット通販サイトでは、約1547点を扱う。

5月6日からネット通販サイトで中元の注文を受け付ける近鉄百貨店は、サービスを強化した。送料無料の期間を前年の約2倍に延長。対象は約780点で、期間は8月2日までの89日間とした。ネット通販サイトでは、限定を含めて約1600点を販売。対象商品の購入者から抽選で30人にカタログギフトをプレゼントする。

近鉄百貨店がネット通販サイト限定で販売する「パテイスリーヤナギムラ」の「ヤナギムラのフローズンしろくまブランちゃん」

5月15日にネット通販サイトで中元の販売を開始した東急百貨店は、同日~7月31日の午後3時まで、客とパソコンやスマートフォンなどの画面を共有しながら買い物を助けるサービスを実施。パソコンやスマホなどの操作に不慣れな客の流出を防ぐ。ネット通販サイトでは約1500点を販売。いずれも送料無料か配送料込みだ。

5月18日からネット通販サイトで中元を販売する東武百貨店は、商品の点数を前年から約35点増やすとともに、昨年の歳暮商戦に続き客とパソコンやスマートフォンなどの画面を共有しながら買い物を助けるサービスを用意。5月20日~6月2日にはカードホルダーを対象にポイントアップも実施するなど、品揃えの拡充と利便性、特典で買上げに結び付ける。ネット通販サイトでは約1800点を展開。いずれも送料無料だ。

5月20日にネット通販サイトで中元商戦に乗り出した京王百貨店は、店舗の約1.5倍の商品が送料無料。ネット通販サイトで取り扱う約1300点の大半が送料無料や送料込みだ。品揃えでは、缶詰や防災用品など12点の限定を用意。昨年の歳暮商戦で採用した、客とパソコンやスマートフォンなどの画面を共有しながら買い物を助けるサービスも継続する。

同じく5月20日にネット通販サイトで中元の販売を開始した小田急百貨店は、カタログと同じ約1400点を集積。全て送料無料だ。

店頭と同じ6月2日からネット通販サイトで中元を扱う松屋は、拡販に向けて品揃えを前年の1.2倍にあたる約1050点に増やしたほか、3つの特典を用意。銀座店の食品売場で人気のショップの商品を送料無料にするとともに、価格が10%~15%オフの期間を昨年より14日延長し(7月9日午前10時まで)、「松屋ポイントカード」の利用にともなうポイントの付与を5倍にした。クレジットカード「松屋カード」とも併用できる。

6月2日に開いた、松屋銀座店のギフトセンター

ネット通販の初動は上々だ。三越伊勢丹は前年比2桁増、大丸松坂屋百貨店は同6.8%増(5月末まで)、そごう・西武はスタートから2週間で同5割増、近鉄百貨店は同6%増(5月末まで)、京王百貨店は同4割増(5月末まで)、小田急百貨店は同2桁増で推移。一部に前年の反動も表れたが、各社の広報担当者は「ネット通販サイトは、まだ伸びる」と口を揃える。コロナ禍でギフトセンターを訪れる客が減り、売上げも下振れする中、ネット通販で補完。合算で前年実績の確保に挑む。

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