手厚いコンサル武器に 婦人インナーウェア特集
2020/02/20 11:22 am
百貨店のインナーウェア売場では、最新のデジタル技術を活用した計測や、専門のフィッターによるコンサルティングなど、新サービスの導入が活発だ。インナーウェアは自身の体型に合った選び方が重要で、衣料品よりも試着や計測の必要性が高い。実際に手に取り試せるのはEC通販にない実店舗のメリットであり、中でも前述のサービスは量販店との差異化できる強みだ。加えて、最近はウェブ上で予約できるものが多く、その店舗に普段行かない客が訪れる良いきっかけとなる。「美と健康」は女性にとって年齢を問わず関心が高いテーマであり、出費を惜しまない人も多い。百貨店は手厚いサービスをフックに、そうした需要の取り込みを強化する。
専門家の計測が好評 デジタル活用サービスも
専門的な知識や技術を有するフィッターが、百貨店に新客をもたらす好事例がある。京王百貨店新宿店とトリンプだ。京王百貨店新宿店は昨年8月21日、トリンプのウェブサイトで予約すると、インナーウェア売場で専門のフィッターにカウンセリングを受けられる無料のサービスを導入した。月によっては予約の枠が埋まるほどの盛況ぶりで、岩本裕之婦人服部キャリアスタイル担当統括マネージャーは「普段は百貨店を利用しない20~30代も多く、カウンセリングを受けた女性の買上げ率は約8割にのぼる」とサービスの有益性を実感する。
松屋銀座本店は昨年11月に、3Dボディスキャナーを活用したワコールのサービス「3D smart&try(スマートアンドトライ)」を始めた。ワコール独自の3Dボディスキャナーが5秒間で体の約150万点を計測し、接客AIがそのデータをもとに商品を提案する。これが好評を博し、毎月予約がほぼ満杯となっている。特に積極的にPRした外商顧客の買上げが寄与し、他の2店舗(東急プラザ表参道原宿、大丸心斎橋店)と比べても最も買上げ単価が高いという。松屋銀座本店の売場はスタッフの約6割がファッションや女性のボディについての知識を持つ「インティメイトアドバイザー」の資格を取得しているなど、コンサルには手厚い体制を敷いていたが、「最新のデジタル技術の活用によって、より正確にお客様の悩みに応える提案ができるようになった」と婦人三部MD課バイヤーの岩井実佐氏は好調の理由を明かす。利用者は下は20代から上は70代まで幅広い。物珍しさから来る人も多く、トータルで見ると買上げ率は高くないが、様々な層の客が店舗へ足を運ぶ集客装置となっている。
こうしたサービスは新客の獲得や的確な商品提案に極めて有用だが、売上げに結び付けるには売場の環境も重要だ。松屋銀座は、昨年2月の改装で売場面積を約3倍の640平米に広げ、内装にも注力。360度をランジェリーに囲まれ、各ブランドの世界観を存分に表現できる空間を作り出した。すると特に個性の強いインポートが売上げを伸ばし、イタリア発の高級ブランド「ラペルラ」は昨年比で1.8倍(19年2月17日~20年2月5日)。今年2月1日にも売場面積を拡大した。商品を揃えるだけでなく、いかに魅力を打ち出すかも購買意欲を左右する。
京王新宿店は、昨年8月の改装を機に、ワコールの売場で机と椅子の数を増やした。肌着の購入は試着なども含めて時間が掛かるため、少しでも快適に過ごせるよう工夫を凝らす。岩本氏は「美容施術や喫茶店との隣接も効果的」と指摘する。一般的に百貨店のインナーウェア売場は奥まった位置にあるが、インナーウェア売場は改装で美容施術や人通りが多い喫茶店に隣接させても苦情などは寄せられず、むしろ買い回りが増えたという。客は他人の視線はそれほど気にせず、むしろ気軽に立ち寄りやすい環境を求めるのかもしれない。
京王新宿店は館内の買い回りも強化しており、インナーウェア売場で使えるクーポンを、以前売場があった2階や4階のショップで定期的に買上げ客へ配布したり、カードホルダーへのダイレクトメールに同封したりしている。これによって売場の認知度を上げ、同時に移設による顧客の流出を防いでいる。
売場の活性化策は様々だが、コンサルティングサービスという点では、先に挙げたメーカー主導のものだけでなく、店舗独自のアプローチが奏功したケースもある。松屋銀座は昨年11月、売場を案内して自由に試着してもらう「ランジェリーツアー」を開催。すると、体に悩みを抱えたとある客が「こんなことをやってくれるお店は他にはなかった」と非常に感銘を受け、かなりの額を購入したという。
女性にとって体型の悩みは深く、解消したいという需要は工夫次第で掘り起こせる可能性を秘めている。じっくりと悩みに寄り添うコンサルティングサービスは、百貨店の強みである「安心感」との相乗効果も期待でき、インナーウェア売場の起爆剤となり得る。