にんべんが挑戦するファンコミュニティづくりのコツ 「仲間」目線で楽しさ共創
2022/11/11 12:00 am
にんべんが手掛けるファンコミュニティ「にんべんだしアンバサダープロジェクト」が、大きな広まりをみせている。ラジオ番組でコーナーができたり、商品開発の共創プロジェクトが立ち上がったりと様々な企画が生まれ、今や同社の情報発信や企画において欠かせない存在だ。実はこのプロジェクトは2014年に始まったが、様々な課題にぶつかり、20年にリニューアルを実施。その結果、こうした好事例が積みあがってきた。ファンコミュニティを運営する難しさや、うまくいく秘訣は何か。主幹を務める経営企画部広報宣伝グループの森沙織さん、津田あすかさんに話を聞いた。
以前は「顧客サービス」、コミュニティが閉鎖的に
にんべんだしアンバサダープロジェクトは2014年、丸の内エリアのママサークルの食育イベントに同社が参加したことをきっかけに始まった。ママサークルからの派生のため、メンバーは紹介制で、女性に限定。新商品のプレゼントや、料理教室や工場見学などのイベントを行っていた。
しかし、続けていくと課題が生じた。森さんは、「当時は『ファンコミュニティの形成』というより、『既存のロイヤルカスタマーへのサービス』の意味合いが強く、イベントの目的もどこかぼんやりとしていた」と話す。さらに、「メンバーが増えるほど管理のコストは嵩み、逆に一人一人との接点が薄れていく。そのため、17年から新規募集を止めて人数を絞ったが、関係性が濃くなる一方で、『にんべんからお客様に提供する』構図になっていた」。こうした状況では活発な意見や企画は出づらく、行き詰まりを感じていた。
「一緒に楽しむ」発想で メンバーはオープンに募集
これらの問題を解決するため、20年春に抜本的なリニューアルを敢行。活動に広がりを持たせるため、入会に制限を設けず、ウェブから応募できるようにした。活動内容も見直し、ファンミーティングに力を入れるようになった。
ファンミーティングは「だしをもっと好きになってもらう」を目的に、かつお節の基礎知識をレクチャーしたり、アンバサダーが考えた新商品のレシピをつくって食べたりなどしている。加えて、アンバサダー同士の交流の時間も意識して設けている。これは「同じものを好きな人と会話をすれば、もっと好きになる。楽しい気持ちで帰ってもらえれば、次の参加にもつながる」(森さん)からだ。
この考えは、リニューアル前に行った工場見学がきっかけだったという。「製造している工程を五感で感じ、職人さんの熱意を直に聞いた後は、皆さんが本気で感動して『かつお節の魅力を、家族や大切な人に伝えていきたいです』と言ってくれた。それが印象的で、『かつお節を好きになってもらえるイベントをしよう』と考えた」と森さんは振り返る。
以前のような「にんべんが顧客に何を提供できるか」ではなく、「どうしたら一緒に楽めるか」という視点も意識する。主役は「かつお節」や「だし」で、にんべんもアンバサダーも、コミュニティの一員という位置付けだ。「もちろん当社は商品やノウハウを持っているが、『これを使うとこんなことができるから、一緒にやりませんか』という姿勢で行っている」と津田さんは説明する。
メンバーが自主的に発案し、新企画が続々と実現
こうして「かつお節を好きになる、皆で楽しめる」活動を重ねる中で、アンバサダーが自主的に考案した企画が増えてきた。今年2月には、アンバサダーがだしを使ったレシピを紹介するラジオのコーナーがスタート。アンバサダーの1人である杉本史織さんが、神奈川県大和市のラジオ「FMやまと」で「Weekend Navigation」のパーソナリティーを務めており、杉本さんが企画して実現した。同番組内のワンコーナー「おだし de ごはん」で放送され、ラジオリスナーからは「つくってみました」という感想が寄せられている。
にんべんは同番組に広告を出している訳ではなく、あくまでサポート役を担い、企画の立案からレシピの提供、放送までアンバサダーの手で行われている。「こうした2次的な広がりも、まさに私達が目指していたところ。にんべんというブランドが、ユーザーの声として広がっていくのは有り難い」と津田さんは述べる。
「重症筋無力症患者啓発プロジェクト」への参加も、同様の事例だ。これは自分の力で咀嚼や嚥下が難しい人でも食べやすく、なおかつ美味しいレシピをつくるプロジェクトで、その1つとしてアンバサダーで料理研究家の辻亜弥さんが、にんべんのだしを使ったレシピを考えた。これも辻さんが自ら行ったもので、にんべんだけではカバーできていなかった領域まで、だしを使った食生活を広めている。
社内の評価が高まり、営業や企画とも連携
プロジェクトが活性化したことで、社内の他部署からも関心を寄せられるようになった。ファンミーティングで、今年3月に発売した液体だし「ぎゅ~っとポーションだし」のアレンジレシピを募集したところ、多くのレシピが寄せられた。すると、社内で「これを会社のHPに載せたらどうか」という声が上がり、実際に掲載することになった。
さらに、今夏にはアンバサダーとの共創プロジェクトが始動。これも経営企画部が発案したものではなく、家庭用事業部長から声を掛けられて始まった。アンバサダーなどからアイデアを募集し、フレーバー投票、試食会、パッケージ投票を経て来年秋に発売を予定する。
販売や営業部門と連携するようになったのは、数値の観点も大きい。20年のリニューアル時に、SNSのリーチ数や購買率、推定売上高などの効果指標を設定したが、初年度から達成。22年9月(取材時点)まで、前年比増で推移している。目標値をクリアし続けていることで、他部署へメリットを伝えやすくなっている。
「アンバサダーの存在が販売促進につながるというのは、数年前では考えられなかった。これもアンバサダーをお客様ではなく、同じ仲間という存在に位置付けたため、積極的にコミットしてもらえるようになった」と森さんは語る。
ファンコミュニティの形成は主に顧客の囲い込みや情報発信、マーケティングなどが目的だが、企業が一方的に与えていると、メンバーはそれを受け取るだけになってしまう。楽しさを生み出す企画や、メンバーも企業も同じ仲間という姿勢が、メンバーのロイヤルティや自主性、さらにはやりがいを引き出すカギとなる。
(都築いづみ)