吉川水産、百貨店らと組んで漁業や養殖業の従事者を支援
2020/07/31 2:24 pm
漁業や養殖業の従事者を支える――。吉川水産は、農林水産省の承認を得て東京魚市場買参協同組合が手掛ける「水産物販売促進緊急対策事業」に基づき、百貨店内など22の店舗で鮮魚類の試供品を無料で配布。好評を博している。6月末に始めたが、100円のもずくのパックを買っても真鯛、めばち鮪などのサクを無料で貰える〝大盤振る舞い〟が、客数や買上げ点数を向上。通常は日商が上の精肉店を、その効果で逆転する百貨店内の店舗も少なくない。百貨店からも「早ければ開店から1時間でなくなってしまう。配布する量を増やして欲しい」といった声が多く寄せられ、確かな効果を裏付ける。6月30日~7月18日の第1弾を経て、現在は7月21日~8月9日の第2弾の期間中で、第3弾も計画中だ。
新型コロナウイルスの影響で、飲食店の休業が相次ぎ、訪日外国人も激減。鮮魚類の需要は大幅に減少した。漁業や養殖業の従事者が困窮する中、農林水産省も対策に着手。鮮魚類の販売促進を支援する、水産物販売促進緊急対策事業を打ち出した。東京魚市場買参協同組合が実施する鮮魚類の試供品の無料配布も、その一環だ。同組合に名を連ねる吉川水産は、百貨店内の店舗などで6月30日にスタート。100円のもずくのパックを含めて何らかの商品を購入した客に、7月4日、11日は真鯛の刺身用のサク、7日、14日、18日は湧水ぶりの刺身用のサクを、数量限定で配布した。
試供品は、専門のメーカーに委託して真空パックに詰める。店舗では、基本的に配るだけだ。コストは嵩むが、安全・安心を徹底する。試供品を余らせないよう、各店に配布する数量も厳密に設定。店舗ごとに前年7月の客数を調べ、その半分に決めた。
コロナ禍では積極的なPRがタブー視されるため、自社のウェブサイトで告知したほかは、「水産物支援強化月間」と記したA4サイズのチラシをつくり、並行して売場に用意したセール品の近くに掲示する程度だったが、反応は上々。特に真鯛のサクが人気で、客数や買上げ点数の増加に結び付き、そごう千葉店などからは「試供品の数量を増やして欲しい」という声が届いた。
当初、百貨店やショッピングセンターら〝家主〟からは「試供品でも無料で配ると売上げが減るのではないか」と危惧されたという。しかし、結果は逆だった。吉川水産の駒ヶ嶺光二関東事業部兼バイヤー部部長は「コロナ禍でスーパーマーケットの売上げは伸びたが、百貨店は厳しい。そもそも、人に来てもらえないと商売にならない。来店の動機に、水産物を購入する契機にしたかった。第2弾までは順調で、お盆を避けて9月に第3弾を盛り込みたい」と意図や計画を説明する。
試供品の無料配布は、「あくまでも支援が大前提」(駒ヶ嶺氏)という。ただ、コロナ禍で休業を余儀なくされるなど、大きな痛手を被った店舗の収益の改善は喫緊の課題だ。駒ヶ嶺氏は「お客様のニーズが変わってきた。保存が可能な塩干物や冷凍物の動きが良く、いわゆる『ファストフィッシュ』(=気軽に食べられるように工夫された商品)も売上げが伸びている。今後も『簡便』のニーズは増えていくと予想され、冷凍物やファストフィッシュの品揃えを拡充していきたい。惣菜も伸び代が大きく、研究して寿司に次ぐカテゴリーに育て上げる」と腹案を明かす。
「ウィズ・コロナ」に即した見直しは、品揃えだけではない。行動範囲の狭小化を想定し、足元商圏の深耕にも注力する。例えば、百貨店には「足元商圏の人々に支持される商品を一緒に開発したい」(駒ヶ嶺氏)と〝ラブコール〟を送る。
「島国に住む日本人は、魚や寿司が大好き。美味しさの新たな発見、地元で埋もれている物の発見に繋がるような店舗を追求していきたい」と、駒ヶ嶺氏。攻めの姿勢で、ピンチをチャンスに転換する。