三陽商会、下半身を“面”で支えるパンツ「サンヨー パンツ ラボ」 加齢による体型変化に対応

2022/08/30 12:00 am

タグ: 三陽商会 

加齢によって体型が変化し、今まで似合っていた服が似合わなくなっていく。誰もが抱える悩みだが、中でも下半身全体を覆うパンツはその最たるものだ。体型をカバーしながら、かつ美しく見え、快適に過ごせる——そんな贅沢な願望を叶えるパンツが今秋、登場する。三陽商会が独自開発した「SANYO PANTS LAB.(サンヨー パンツ ラボ)」は、ウエストではなく腰やヒップなど下半身を“面”で支える構造で、すっきりとしたシルエットながら、お腹周りにゆとりを持たせている。

サンヨーパンツラボは、今秋に「AMACA(アマカ)」、「TO BE CHIC(トゥー ビー シック)」、「TRANS WORK(トランスワーク)」、「S.ESSENTIALS(エス エッセンシャルズ)」の4ブランドからデビューする。価格は2万900円~2万7500円。エス エッセンシャルズからは、7月に1種類が先行して発売した。

その着用感について、事業本部婦人服ビジネス部の橋村有幸部長は「サンヨーパンツラボは、はくとウエスト部分にゆとりを感じるが、腰や太ももで支えているような安心感がある。座ったときや食事をした後もストレスなく過ごせる」と説明する。今までにない発想のパンツだが、これは三陽商会の社内横断型プロジェクト「商品開発委員会」を通じて開発されたという。

 

3DCADを使用し、科学的な根拠を元に開発

今回の企画を主導した、橋村有幸氏(左)と三浦和博氏(右)

商品開発委員会は昨春、大江伸治社長の発令の下に立ち上がった。同社の開発力、技術力を結集し、ブランドの顔となる商品を開発することを目的に、R&D(研究開発)に取り組む。技術開発部や工業技術課、企画部門、サンヨーソーイング 青森ファクトリー、同福島ファクトリーなどが参加している。

そこで「アマカ」、「トランスワーク」、「トゥー ビー シック」などを扱う婦人服ビジネス部からは、「年齢とともに体型が変化し、似合うパンツが分からなくなる」という課題が上がった。「ブランドのターゲット層である40~60代の悩みにしっかりと対応できる、究極のはき心地のパンツを開発したかった」と橋村氏は経緯を語る。

まずは、ターゲット層がパンツに何を求めているかをリサーチ。同社の会員サービス「サンヨー・メンバーシップ」の会員を対象に、アンケートを実施した。すると、ウエストやヒップ、太ももなどのサイズが、「どこかに合わせるとどこかが合わない」という悩みが多数寄せられた。特にウエストゴムのパンツは人気が高いが、ウエスト部分が動きやすく安定しないため、座ったりしゃがんだりするときにずり下がってしまうという問題がある。要望としては、細く見えるなどスタイルのカバーを求める声が多かった。「びっしりと書いてくださった方もいて、それだけパンツに対する悩みや要望が大きいのだと実感した」と同部トゥー ビー シック企画課の三浦和博氏は振り返る。

次に、3DCAD(コンピューターによる3次元設計)を使用して、パンツをはいたときにかかる圧力のデータを採取。婦人服ビジネス部でサンプルの制作などに使っていた「VStitcher」を用いた。年代ごとの平均的な体型のアバターに、同社のパンツをはくとどうなるかをシミュレートし、分析。どこにどれほど圧力がかかるかは「プレッシャーマップ」で視覚化される。結果、40~60代になるとヒップの位置が下がり、足が細くなるため、同じパンツをはいても圧力の位置に変化があることが分かった。

そのデータを基に、サンヨーパンツラボの「はき心地」の定義を決めた。「パンツは、どこかで支えないと落ちてしまう洋服。どこで固定するかというのが肝となるが、今市場に出ているゴムパンツは、ウエストを線でキュッと締めている。『どこでパンツを固定させ、ゴムパンツとは違った気持ちよさ、はき心地のよさを与えられるか』をプレッシャーマップを見ながら探った」と三浦氏は説明する。

こうして条件を決めた後、素材やパターンの開発に着手。商品開発委員会のハブ機関にもなっている工業技術課と協力し、素材や仕様によるアシストなども考慮しながらパターンを決めていった。同課には長年のデータや経験があるため、細かいサイズ調整や縫製の工夫などで課題を解決してもらったという。橋村氏は「ここまでしっかりと工業技術課と組んで商品を開発したのは初めてだったが、改めてこの部署の技術力や解決力の高さを実感した。こうした経験も、商品開発委員会があったからこそだった」と述べる。

 

一定の水準を維持しながら、展開を拡大へ

3DCADを使用したプレッシャーマップ

こうして開発されたサンヨーパンツラボは、試着した社員から「見た目がスマートに見える」、「はき心地がよい」、「トップスをパンツインするときも、すっきりと着こなせる」といった声が寄せられている。とはいえはき心地の良さの基準は人それぞれのため、発売に先立ち、支店を周ってスタッフにはき方や接客の案内方法をレクチャーした。

店頭ではポップや専用のタグを付け、サンヨーパンツラボということを分かりやすく訴求する。1つのブランドとして育成していく考えで、来春夏には夏素材のものを発売するなど、バリエーションも拡大する。当然、素材が違えばパターンも微妙に異なるため、デザインを随時検証し、データを蓄積していく。

今回の4ブランド以外での展開も視野に入れる。ただし、「サンヨーパンツラボとしての定義を守る」ことを重視。基準がないと、フィッティングなどの過程でどんどん変わっていってしまうため、「ここまではブランドの特性に合わせて変えてもいいが、ここからは守らなければいけない」という数値の定義を決めた。新商品を出すときはそのチェックを行い、一定の品質を保ちながらブランド力を高めていく。

サンヨーパンツラボは、3DCADによる科学的なデータ分析、工業技術課の豊富な経験を活かしたパターン制作など、同社の技術や経験が盛り込まれた商品だが、起点は消費者のニーズに応える「マーケットイン」発想から始まった。体型をカバーしながら快適なはき心地で、見た目も美しいという、ある種夢のようなパンツ。どれほど消費者の心を掴むのか、今後の展開に注目が集まる。

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