百貨店の井上、地元の飲食店や宿泊施設を支援

2020/05/02 9:00 am

政府が発令した緊急事態宣言を受け、百貨店業界では店舗の臨時休業や生活必需品を扱う一部の売場での営業が続く。3月や4月の売上げは過去に例を見ないほど落ち込み、経営は厳しさを増しつつある。そうした中でも、地域住民の生活を支えるため、外出を自粛する人々の毎日に〝潤い〟を与えるため、さらには従業員を守るため、各社は食料品売場やインターネット通販を拠点に奮闘する。その現場を追う。第2回は長野県松本市の老舗百貨店、井上だ。コロナ禍で売上げが落ち込む地元の飲食店や宿泊施設らの支援に乗り出した。

 

井上は、中心市街地に本店、東筑摩郡山形村にショッピングセンター「アイシティ21」を構える。緊急事態宣言の発令に伴い、本店は食料品売場のみ、アイシティ21は百貨店の食料品売場と家庭用品売場、専門店のみの営業に切り替えた(4月25日~5月6日、営業時間は午前10時~午後6時、5月1日時点)。そのアイシティ21に4月11日、地元の飲食店の商品を揃える売場を構えた。

 

「コロナ禍で観光客が激減し、ホテルや飲食店は困窮した。テイクアウトだけでは限界もある。一方、いわゆる『巣ごもり消費』の増加でスーパーマーケットには恩恵が少なくない。当社がプラットフォームを担い、ホテルや飲食店の商機を増やしたいと考えた」

 

井上の井上博文常務執行役員が経緯を説明する。松本市内でカレーを扱う店を巡るスタンプラリー「松本カリーラリー」を運営する「『松本カリー』推進委員会」、松本市の名物「山賊焼」をPRする「松本山賊焼応援団」、松本市内でテイクアウトやデリバリーが可能な飲食店を紹介するウェブサイト「城町バルTOGO」、松本市内の宿泊施設で組織する「松本ホテル旅館協同組合」らと連携。品揃えは段階的に拡充する。

 

まずはアイシティ21内の百貨店、井上アイシティ21店の食料品売場に冷蔵ケースを設置。4月11日からは日替わりで松本カリーラリーに参画する4店舗が登場してテイクアウト用のカレーを、4月16日からは松本山賊焼応援団に属する居酒屋ら5店舗が弁当や惣菜を、4月23日からは城町バルTOGOに名を連ねる中華料理屋ら3店舗が弁当や惣菜を、それぞれ販売してきた。

 

さらに、4月29日には規模を拡大。「3密」を避けられる空間である、アイシティ21の1階の中央に位置する「イベント広場」を会場に、各団体から約30店舗を集めた。弁当や惣菜だけでなく、ベーカリーやスイーツの店舗も追加。選択肢を広げた。一部の店舗はラインナップを再考。流行の兆しが見える「オンライン飲み会」に向く弁当や惣菜を充実させた。

 

4月29日と30日は、全店舗でほぼ完売。5月6日までの8日間で600万円の売上げを見込む。単純計算で、1店舗あたりの日商は2万5000円。コロナ禍では決して小さくない額だ。井上氏は「飲食店から『次回は参加したい』という声も届いており、まだまだ困っている飲食店や宿泊施設は多く、今後も継続したい」と意欲を燃やす。5月中旬を目途に、井上アイシティ21店の食料品売場で第2弾をスタートする計画だ。

 

地方百貨店の多くは、経営の根幹に「地域密着」を据える。大都市の百貨店、地方都市の郊外部に張り付くショッピングセンター、インターネット通販らとの激しい競合を生き抜く上で、地域住民の支持が不可欠だからだ。井上は、松本市内の飲食店や宿泊施設などと共存共栄を目指し、地域でのプレゼンス、ロイヤルティを高める。

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