【連載】富裕層ビジネスの世界 年代で分かれるコロナ時代の資産運用

2021/07/30 5:00 am

動揺する若手資産家たち

新型コロナウイルスにより、日本経済の不透明感が増している。政府が金融機関を巻き込んで推し進めたコロナ対策などによって日経平均株価は2万円台後半まで回復、倒産も増加していないものの、対策がそろそろ限界に近づいているからだ。そうしたなか、富裕層はどのような資産運用を行っているのだろうか。

ファミリーオフィス「ワンハンドレッドパートナーズ」を運営している百武資薫さんのもとにも、「資産が大きく目減りしているんですが、そろそろ損切りした方がいいのでしょうか」といった相談が、多くの富裕層から寄せられているという。

例えば都内に住み、1億円近くの資産を保有している30代の中堅企業経営者は、不動産などにも投資しているものの、運用は株が中心。そのため「新型コロナの影響が想定以上に長引き、さすがに不安になってきた」と、百武さんに相談したという。というのも、今でこそ株価が回復しているためホッとしているというが、昨年の株価下落時に一時、資産の3割程度が毀損、2000万円が吹き飛んだため、「今後はどうなるのだろうか」と不安になったのだ。

「周りの経営者仲間には素早く損切りし、空売りで利ざやを稼いでいる人も少なくなかった。しかし、そうした知識が乏しかったのに加え、まだ大丈夫だろうと考えて対応が遅くなってしまった」(経営者の男性)

百武さんによれば、こうした相談がここのところ増えているという。相談者は、30代や40代といった若い経営者や資産家が中心。これまで、アグレッシブに株に投資して資産を殖やしてきたものの、新型コロナによって資産が毀損、大きな損を抱えてしまっている人が多いからだ。

こうした相談に対し百武さんは、「慌てず、これまで通りの運用で構わない」とアドバイスしているという。「デイトレーダーのような短期運用なら、早々に損切りすべきだとアドバイスするが、中長期運用の場合には損切りという考えはなじまない。確かに新型コロナの影響は長期化しそうだが、終息するまでしばらく我慢すべき。これまでの運用が台無しになってしまうからだ。慌てずこれまで通りの運用を続けていくべきだ」(百武さん)

 

修羅場を乗り越えてきたシニア

これに対して、資産を10億円以上保有するようなシニアの富裕層は「様子が違う」と百武さんは指摘する。もちろん、今回の新型コロナは先を読むことが極めて難しいため、判断を下すのに躊躇している人もいる。また、「一旦、投資は休むべきか」と迷っている人もいる。

しかし、「バブル崩壊やリーマンショックを経験しているシニアの富裕層は、新型コロナだからといって慌てず、意外に淡々としていている。微動だにしていないという感じだ」(百武さん)

事実、著名な投資家で数十億円の資産を保有している男性は、「確かに新型コロナで大きな損失を被っているが、運用はこれまで通りで何も変えていない」と明かす。

この男性の場合、株だけでなく金や原油、為替商品など幅広い金融商品に投資しており、こうした商品も2〜3月に大きく下落、かなりの損失を抱えた。それでも運用方針は変えず、これまで通り淡々と運用しているという。

これは、富裕層特有の事情がある。まず、資産規模が大きいため信用取引などはやっておらず、慌てて対処する必要がないこと。また、資産を「増やす運用」ではなく、「減らさない中長期的な運用」が中心のため、危機が訪れても影響を受けないよう備えており、そのたびに運用方針を見直すといったことはしないためだ。逆に、「株価が下落しており、リスク資産を買い増すタイミングなのではないか」という問い合わせも増えているという。これに対して百武さんは、「余裕資金があるなら、買い場ですから追加投資してはどうですかとアドバイスしている」という。

 

アフターコロナ時代の資産運用

では、新型コロナ終息後、つまり「アフターコロナ」についてどうなのか。

これに対しては、富裕層もまだ判断がついていないのが現状のようだ。そのため百武さんのもとにも、「新型コロナ終息後の運用はどうすべきか」といった相談が増えているという。そこで百武さんは、「不透明であるからこそ、慌てて資産を売却したりせず、これまで通りの運用を続けるべき」と答えている。

今回の新型コロナは、バブル崩壊やネットバブル崩壊、そしてリーマンショックのような金融発のものとは性格が違う。よって、未知の要素が多過ぎる。そういう意味では、過去の経験則が当てはまらない。百武さんも「先を読むことは至難の業」と判断している。

しかし、こうも答えている。「先行きが見えないからといって、いきなり資産を切り売りしたりすれば、これまでの運用がパーになってしまう。一般の投資家と違って富裕層は大きな資産を保有しており、多少痛んでも、将来カバーすることができる。そういう観点から、これまで通りの運用を続けていくべきだ」という。

今回の新型コロナをめぐっては、経済や株価への影響が大きく、投資家たちの不安は増しており、一部には資産の投げ売りなども始まっている。しかし、富裕層の資産運用を見ると、中長期運用を目指し、しっかりとこれまで通りの運用を続けるべきだといえそうだ。

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