【ベビー・キッズ特集】京王新宿店、ベビーラウンジが力を発揮 夏休みイベント強化で集客図る

2021/07/21 5:00 pm

京王百貨店新宿店のベビー・キッズ売場ではミキハウスが導入した「ベビーラウンジ」が、このコロナ禍でも力を発揮し注目を集めている。ベビーラウンジの導入は19年11月。全国で3番目となる開設だ。

ミキハウスの売場の一角に個室を設置。4人掛けのテーブルやベビーベッドなども置いて接客できる広さだ。開設から1年半近くが経ち、その使い方が広がってきた。沐浴の仕方や肌着の着せ方、抱っこ紐の着け方などを実地で教えてくれる「お世話体験会」は特に人気で、今も週2~3回、ラウンジを使って開催している。

コロナ禍で病院のマタニティセミナーが相次いで中止となっており「初めての出産でわからないことがたくさんあるのに気軽に聞ける機会が減っていた。こういったセミナーはありがたい」という消費者の声も多い。京王百貨店のミキハウスには「子育てキャリアアドバイザー」というミキハウス資格をもった販売員も多く、自身の子育て経験に基づいたアドバイスももらえる。

コロナ禍では店頭に来ることを控える人も多いため、このようなセミナーはオンラインの実施も進めている。店頭の「ベビーラウンジ」と顧客の自宅を繋ぎ、さらにはそこに生まれる子の祖父母も参加し、自宅にいながら3世代の接客が可能になった。ハウスカードを持っていればそのまま決済もできる。

京王百貨店ではこのベビーラウンジをセミナー以外の様々な用途に活用している。例えば昨年のハロウィンにはチェキでの撮影会を実施。少人数制での開催だったがこういった季節を楽しめるイベントは軒並み中止になっていたため、大好評であった。また部屋が空いていれば普段の接客にも活用している。お腹の大きな人でもゆったりと買い物できたり、気になる商品を机に並べて検討したりと、じっくり接客ができる。「外からの視線を遮ることができるためお客様の集中力も持続しやすい」と販売員にも好評だ。今後は「靴の計測会などにも活用していきたい」(京王百貨店 家庭・文化・子供用品部 ショップMD担当バイヤー池田美雪氏)としている。

コロナ以降、抗菌素材「ピュアベール」を使った衣類や子供用マスク、丸洗いできるおもちゃなどの売れ行きが良い。今秋にはミキハウスの50周年を記念した復刻アイテムを1階イベントスペースで期間限定販売する予定。子供用品を1階のメインエントランスで展開するのはめずらしく「祖父母世代の方にも『懐かしい』と手に取ってもらえるイベントになるよう準備をすすめている」(池田氏)という。

 

感染症対策を講じ、夏休みのイベントを連打

京王百貨店新宿店の子供用品売場では今年、夏休みに子供が楽しめるイベントを多数企画している。8月5日~30日は「夏休みフェスティバル」と銘打ち、新宿店7階大催場を中心に親子向けイベントを充実させる。昨年は開催できなかったイベントなど感染症対策を講じたうえで実施する。

8月5日から16日は有料催事「しまじろうプレイパーク」を開催する。ベネッセ社「こどもちゃれんじ」の人気キャラクターしまじろうと一緒に「遊びを通して学ぶ」親子で体験できるブースを集積したイベントで、毎年人気のイベントを、入場制限強化など感染防止対策を実施しながら2年ぶりに開催する。同会期で「でんしゃランド」も開催。親子で楽しめる鉄道イベントで、京王線関連展示コーナーや、「電車でGo!!」の電車運転士なりきり体験などを行う。今まで鉄道フェスとして開催していたが、改めて子供向けに発信する。8月18日~23日は「SHINJUKU ZOO FESTIVAL」を行う。都内の動物園や水族館の公式グッズを販売。動物のパネル展示も行う。

そのほかにも、人気クリエーターが手掛ける鳥グッズを集積する「ことりまつり」(8月18日~23日)や精巧に作られたドールハウスの展示・販売、ワークショップを開催する「ドールハウス展」(8月25日~30日)、ドイツ生まれのフィギュアブランド・シュライヒなどの動物グッズをそろえる「ANIMAL FESTIVAL」(8月25日~30日)など根強いファンを持つ催事を多数開催する予定だ。ワークショップなどは夏休みの自由研究として取り組む親子もおり、時間消費だけでなく、学びのあるイベントとして注目度も高い。

 

ミキハウス、強みの「接客力」生かし ベビー領域のさらなる開拓へ

今年5月にオープンした松坂屋名古屋店のベビーラウンジ。ゆっくりできるプライベートな空間になっている

今年創業50周年を迎えたミキハウスは、次なる50年に向けて、〝ベビー〟領域の強化に注力する。その基軸の1つが売場に併設する個室スペース「ベビーラウンジ」で、プライベートでラグジュアリーな空間として顧客からは好評を博し、買い上げ単価の上昇やリピート購入に繋がっている。今年5月には新客の入りやすさを考慮し、新たなスタイルのラウンジを松坂屋名古屋店にオープンした。

もう1つの軸が、他社の商品も扱う「販売業務委託」。ミキハウスと百貨店の双方にメリットがある販売手法として、昨年から郊外店を中心に導入を始めている。同社は強みである〝接客力〟を最も生かせるベビー領域で、顧客の悩みの解消をサポートし、拡販と同時に企業としてのプレゼンスを高めていく考えだ。

 

プライベートな個室空間で 1人ひとりにじっくり対応

ベビーラウンジは1人ひとりの相談にじっくりと応じることで、より付加価値の高いサービスを提供することを目的とする。個室の空間にテーブルやソファを設け、ベビーベッドや肌着など一部の商品も陳列。2018年8月の松屋銀座本店に始まり、同11月にそごう広島店、19年11月に京王百貨店新宿店、直近では今年5月に松坂屋名古屋店にオープンした。16年にスタートした出産準備品の売場「ベビーサロン」に併設する。

開設以降多くの客に利用され、「1対1で落ち着いて接客を受けられる」と各店で好評を博している。出産前に準備が必要な商品は多岐に亘り、未経験の妊婦が用意しようとすると、何をどれほど買えばいいのかなど懸念事項が多くなる。しかしラウンジであれば長時間でも気兼ねなくアドバイスを受けられ、妊娠・出産における身体の悩みといったパーソナルな話もしやすい。

そごう広島店のベビーラウンジは、百貨店と協力し独自のイベントも開催している

こうした理由で販売員との距離が縮まりやすく、必要なアイテムについても理解が深まるため、単価の上昇や次の購買に繋がっている。祖父母が一緒に来店するケースでも個室の方が一同で話がしやすく、財布の紐が緩むこともあるようだ。最近では「コロナ禍でも普通の売場より密を避けられる」と安心感を抱く客も多い。

接客だけでなくイベントスペースとしても活用しており、赤ちゃんの沐浴の方法や肌着の着せ替え方、出産前に用意しておいた方がよいものなどをレクチャーする出産準備相談会「赤ちゃんのお世話体験会」を行っている。

独自のイベントを行う店もあり、そごう広島店は百貨店と協力して年中行事や誕生日などの機会にラウンジ内を装飾し、写真を撮影できるイベントを定期的に開催。京王新宿店は昨年9月、ワコールと共同で肌着の選び方、着せ方などを教える出産準備相談会を企画した。

こうしたイベントは出産を控えた客が初めて来店したり、産前に一度購入した客が再度訪れたりするきっかけとなるなど、顧客との関係性の強化に寄与している。コロナ禍以降は人数を制限するなど、感染対策を講じながら行っているという。

今年はさらに、ベビーラウンジの新しいあり方を追求。5月28日にオープンした松坂屋名古屋店のベビーラウンジは今までと少し趣向を変えた。カフェをイメージし、売場との間仕切りを腰までの高さにして、ラウンジの外から上部が見えるようにした。これは完全な個室だと中で何が行われているのかわからず、利用にハードルの高さを感じてしまう客もいるため、ラウンジに親しみを持ってもらえるよう意図した。

売場の販売員からも「外から少し見えるつくりなので、関心を持ったり、足を止めていただきやすい」、「接客を受けるお客様は通路を背にしているので、プライベートな空間としてゆったり過ごしていただける」といった声が寄せられた。ベビーラウンジの特徴であるプライバシーや個室感は守りながら、多くの客が利用しやすい空間を目指す。

 

安全な買い物環境を目指し オンラインセミナーを開始

昨秋にはオンラインでセミナーを開始。ネットでも伝わりやすいよう工夫を重ねている

こうしたラウンジを介した接客は出産や子育てを控えた客との相性が非常に良いが、昨今は新型コロナの感染拡大によって、店頭を訪れることに不安を抱く客もいる。特に都心店は例年より客数が減少傾向だ。そこで昨秋、ラウンジを使ったオンラインの出産準備セミナーを開始した。最終的に店頭に足を運ぶ客でも、何が必要かある程度目星を付けた状態で来店し、短時間で効率的な買い物をしてもらうことを目的とした。

講師はミキハウスの販売員で、沐浴の方法や肌着の着せ替え方といった、実店舗の体験会と同等の内容を1回60分で講義する。単に配信するだけではなく、妊婦との「対話」を重視しており、講義の後に質問に答える時間も設けた。そこで十分に疑問が解消できるよう、参加人数は最大で4組程度に絞っている。出産準備のためのファーストステップという位置付けで、より詳しく知りたい客は後日改めて1対1の対話も可能だ。

現在は主にミキハウスや百貨店の顧客を対象に行う。ラウンジがある百貨店が中心だが、ない百貨店でもミキハウスの本社スタジオを使って開催した事例もある。

開始にあたり留意した点として、どの客にも同じ満足度になるよう、講師となるスタッフにはカメラワークや接客など、配信上の留意点について事前に研修を行った。接客販売のプロであっても、ネットを通じたセミナー形式では異なる技術が必要となるため、そのギャップをしっかりとフォローして臨んだ。

顧客からは、安全な環境で知識を得たり疑問を解消したりできるツールとして支持を集めており、今後は対象店舗の拡大を予定する。また、オンラインセミナーの講師の社内資格を正式に設立し、そのための研修も含めた社内制度の整備も考えているという。

 

他社の販売業務委託で 百貨店とウィンーウィンに

ベビー領域の深耕のために新たに始めたもう1つの策が、販売業務委託だ。ミキハウスの売場内にベビーカーなど他社の商品も揃え、共に販売する。発注は百貨店のスタッフが主となるが、ミキハウスの販売員も参加して現場の意見を反映する。商品が売れると手数料が入る仕組み。他社の商品についても接客できるよう、メーカーから講師を招いた勉強会も行っている。

この取り組みは以前に同社と百貨店が共同で売場の運営に取り組んだところ、ミキハウスの接客力が評価されたことから実現に至った。昨年高崎髙島屋で始めたのを皮切りに、導入店舗を増やしている。

競合他社の商品も販売を委託されるとはあまり例を見ない試みだが、同社は「売場の価値が上がる」と捉える。客の目線では「自分に合った商品を試して決めたい」というニーズは高い。何店舗も回ることなくワンストップで比較でき、その全てでミキハウスの質の高い接客を受けられるというのは他の店にない大きなアドバンテージとなる。

販売業務委託はミキハウスにとって売場の魅力向上や差異化に繋がるだけでなく、百貨店にとっても大きなメリットがある。昨今の百貨店は従来より効率のよい店舗運営のために様々な手法を取り入れているが、特に大型テナントの誘致が盛んだ。自然と子供服売場の面積は圧縮されるが、ミキハウスの販売代行を取り入れれば、品揃えの豊富さを保ったまま1社に販売を委託できる。接客や販売の質が保証されながら、さらに管理コストが抑えられるというわけだ。

ミキハウスは双方がウィンーウィンとなるこの販売手法に商機を見出し、今後は都心店でも広げていく意向だ。

 

モノだけでなく〝コト〟 付加価値の向上にまい進

同社は長年接客力の向上に取り組んでおり、例えば売場には出産経験があり、子育てのスペシャリストとしての社内資格「子育てキャリアアドバイザー」を持つスタッフが常駐。自身の経験を生かして客へ寄り添った接客ができる上、最新の子育ての情報や他社の商品についても社内研修などを通じて勉強している。今回の2つの取り組みも、コロナ禍やデジタル技術の発達、売場の縮小といった状勢に応じながら接客力を生かした施策に他ならない。

インターネット通販サイトの台頭によって、モノを買うだけであればいつどこでもできる時代となったが、親身に話を聞き的確なアドバイスをする販売員は代わりの効かない存在だ。特に出産、育児においては圧倒的なストロングポイントであり、「今、ここでしか体験できない」コト価値の向上に繋がる。ミキハウスは長年培った接客力を武器に、次の50年の発展に向けた種をまく。

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