“リアルならでは”深化 特集 婦人ハンドバッグ
2020/03/05 6:00 am
平場の利点を生かして復活だ――。ライセンスブランドの低迷を背景に、百貨店業界で婦人ハンドバッグ売場の苦戦が長期化する中、品揃えや環境などを自在に変えられる平場をフックに、商況を好転させた百貨店がある。京王百貨店新宿店と大丸梅田店だ。両店は中心顧客の好みを分析した上で、”刺さる”可能性が高いブランドを探し求め、積極的に平場へ誘致。全てが成功するわけではないが、トライ&エラーの繰り返しで精度が上がってきた。不振をかこち、平場を縮小、廃止する百貨店も少なくないが、独自性は薄れ、変化に乏しい。目当てのショップがなければ、客足は細る。京王新宿店と大丸梅田店が、平場の重要性を証明する。
競合との棲み分け加速 「高付加価値に伸びしろ」
京王新宿店の婦人ハンドバッグ平場は、4階に位置する。2018年9月に2階から移設した。「イビサ」や「オサム」、「キタムラK2」、「ペレボルサ」、「ボーデッサン」、「イザック」、「MKミッシェルクラン」、「キプリング」、「シャルル ジョルダン」、「ダックス」、「ラ バガジェリー」、「アーンジョー」、「ディオニス」、「ヤマト屋」などのブランドを揃え、エスカレーターサイドにイベントスペースを擁する。イベントスペースは毎週、内容を変更。新規のブランドのトライアルにも用いる。
売上げの約8割を60代以上で占めるため、品揃えはミセスに特化。ブランドの名前よりも用途や機能性、物語性を重視し、周辺の百貨店と棲み分ける(詳細は別掲)。ミセスの心を掴むとともに、17年の秋から継続的に誘致する「シーサイドフリーライド」で40代を取り込むなど、客層の拡大にも成功。苦境に立つ百貨店の婦人ハンドバッグ平場で気を吐く。
19年度(19年4月~20年3月)には、新たな挑戦も始めた。外商顧客向けの催事に合わせて昨年8月、モントリオール発のブランド「m0851(エムゼロエイトファイブワン)」を展開。中心価格帯は5万8000円~7万円で、百貨店の婦人ハンドバッグ平場の平均を大きく上回るが、外商の担当者と連携して商機を求めた。
担当者を通じて外商顧客にアプローチし、平場ではレザーでありながら軽いという特長をPRするため、比較用のペットボトルを陳列。外商顧客の声は「(価格が)高い」と「面白い」に分かれたが、売上げは2週間で150万円以上にのぼった。明確な特長と、日本には東京都や愛知県、大阪府に4店舗しかないという稀少性に、外商顧客の食指が動いた。今年も3月と8月に販売を予定する。
伊藤誠志婦人服部サイズ・フォーマル担当ライラック・ハンドバッグ売場売場マネージャーは、m0851を「リアル店舗向きの商材」と”推奨”する。m0851はインターネット通販もあるが、価格が高くリアル店舗で手に取って確認したい女性は多い。伊藤氏は、そこにハンドバッグ平場の勝機を見出す。
”リアル店舗ならでは”を追求する同店には、他の成功体験も有する。「中澤鞄」の催事だ。一定の金額以上のバッグを購入すると、その場で職人が動物風のマスコットを作ってくれるという内容で、伊藤氏は「その音を聞き、光景を見た人が足を止めてくれた。呼び水になる」と振り返る。浮かび上がるのは、ハンドバッグ平場における“コト”の重要性だ。購入したバッグにアイロンペンで名前を書き込むサービスも検討する。
高価格帯やコトをはじめ、従来の枠にとらわれないチャレンジを活発化するため、今年3月12日には半年間の限定でイベントスペースを約5~6倍に拡大。第1弾として、ヤマニが運営するネット通販サイト「バッグマニア」が登場する。いわゆる「リアルとネットの融合」で、新客の開拓を目指す。面積の拡大を機に、母の日向けの商品を一堂に並べるなど歳時記にも焦点を当て、従来は難しかったワークショップも開く。
京王新宿店は昨年3月、新たな販促にも乗り出した。7階で1年間に3回行う「婦人靴・ハンドバッグ大バーゲン」と連動。会場でハンドバッグを引き取り、4階の平場で使える1000円分のクーポンを配り始めた。例えば昨年の5月は600枚を渡し、60枚を回収。毎回60枚前後が平場で使われており、売上げを押し上げる。百貨店業界では珍しいが、効果は覿(てき)面だ。
大丸梅田店も、婦人ハンドバッグ平場を4階に構える。ただ、中心顧客は30代~50代と若い。中心顧客の志向も「用途や機能でなくブランド」(清水康平営業1部長)と京王新宿店と一線を画す。それだけに「コンセプトがしっかりしており、平場でも“色”を出せるブランド」(同)を拡充する(詳細は別掲)。実際、「アタオ」や「ペレボルサ」、「ラシット」などの売れ行きは良好だ。
京王新宿店と大丸梅田店の婦人ハンドバッグ売場は、平場の利点を生かして収益力を高めてきた。縮小や廃止は、そのポテンシャルを切り捨てる。ショップは簡単には入れ替えられず、流行り廃りも激しい。百貨店には、平場の強化が必要だ。
品揃えの要点 顧客や立地の特性に的
大丸梅田店 個性光るブランド拡充
京王新宿店 用途、機能でミセス特化
京王百貨店新宿店と大丸梅田店が、平場の潜在能力を示す。前者は60代以上、後者は30代~50代にフォーカス。中心顧客の好みや関心に合うブランドを導入し、成果を積み上げる。
京王新宿店の中村亮婦人服部サイズ・フォーマル担当統括マネージャーは「日々の変化を素早く品揃えに反映できるのが平場の強み。お客様に求められる『用途』、軽さなどの『機能性』、物づくりの『ストーリー性』を切り口に、ミセス向けに特化し、周辺の百貨店(伊勢丹新宿本店、小田急百貨店新宿店、髙島屋新宿店)と棲み分ける」と明確な指針を掲げる。
その上で、品揃えには「2つのポイント」(伊藤誠志婦人服部サイズ・フォーマル担当ライラック・ハンドバッグ売場売場マネージャー)を定めた。1つ目は「軽さ」で、中でもミセスが「両手を空けられる」と好むリュックサックを拡充。昨年は「イザック」の新シリーズで、京都女子大学デザイン人間工学研究所の協力を得て開発した、背負うと軽く感じる「ウェルバ」をいち早く提案し、2カ月間で23本を売上げた。日本一の実績という。平場で扱うリュックの中心価格帯が1万5000円~1万6000円に対し、ウェルバは2万円だが、客は機能性に惹かれて購入した。付加価値が高い商品は、価格にかかわらず売れるという好例だ。
ポイントの2つ目は「売場にない個性的なブランドを、期間限定でイベントスペースに誘致する」(伊藤氏)。例えば2017年の秋には、バリ島でなめした羊皮を使ったソフトで軽い、シンプルなバッグを揃える「シーサイドフリーライド」を訴求。中心価格帯は2万3000円~2万5000円と平場ではハイエンドだが、売れ行きは良く、現在も定期的に登場する。年初のクリアランスセールでは、1週間で100万円に迫る金額を叩き出した。伊藤氏は「神戸に1店舗しかないブランドだが、有名なセレクトショップも扱うほど感度が高く、60代以上が8割の売場に40代を取り込めた」と喜ぶ。
大丸梅田店は、18年4月25日に平場の一角へ入れた「アタオ」が起爆剤となった。清水康平営業1部長は経緯を明かす。「(アタオは)当時、神戸の本店の売上げが良いと聞き、大丸神戸店でも好調だった。近隣では阪急うめだ本店に入っていたが、商品は財布だけで、ハンドバッグも含めてトータルで展開すれば、不振の平場を立て直せると考えた」。中心顧客である30代~50代の目に適う感度で、商圏には手薄。格好のブランドだった。
そして、予想は的中。当初の月商は2000万円ほどだったが、右肩上がりに伸長。昨年3月に大丸神戸店、同5月に阪急うめだ店のアタオの売場が閉じた追い風もあり、約1年後には月商が約1.6倍に跳ね上がった。アタオからの買い回りで周辺の「マーガレット・ハウエル」や「ゲンテン」、「サザビー」なども売上げが嵩上げされ、減少基調だった婦人ハンドバッグの売上げは18年度(18年3月~19年2月)に前年比で二桁増を記録した。
清水氏は「どこにでもあるブランドでは、もはや通用しない。コンセプトが明確で、平場でも“色”を出せる『第2のアタオ』を見付ける必要がある」と指摘する。京王新宿店も同様で、確固たるストロングポイントを有するブランドは、平場でも存在感を放つ。そうしたブランドを、売場のメインターゲットの好みを踏まえながら、どう発掘していくか。競合する店舗が止めたブランドを迎え入れ、差異化する手法にも勝算はありそうだ。いずれにせよ、品揃えの要諦は顧客起点にある。
2020年春夏 注目ブランド
プリンセストラヤ「ダコタ」寄木細工着想の絵柄 ワックス加工で引き立てる
プリンセストラヤは「ダコタ」で今春夏シーズン、新規8シリーズを含めた新作を展開する。今期の同社のシーズンテーマ「ウェルビーイング」(充実した暮らし、豊かな人生)を反映し、柔らかい色合いや心身にやさしい素材の商品を揃えた。目玉として、毎シーズンのテーマに沿った転写プリントを打ち出す「チーザレ」シリーズからは、日本の伝統工芸「寄木細工」から着想を得た絵柄のアイテムが登場する。
今期のチーザレシリーズは、寄木細工にインスピレーションを受けた絵柄をヌメ革にプリントしたアイテムを2月に発売した。艶と深みのあるワックス加工を施し、絵柄の存在感を引き立てる。財布のファスナーの引手には竹を使用した。バッグが3型(2万4000~3万5000円)で、財布も3型(1万1500~1万5000円)。チーザレでは、日本の伝統的な織物柄を取り入れた財布も発売する。
新シリーズ「ビアンカ」からは、クラシカルなかぶせ式のバッグが登場。ヒネリ金具がポイントとなっている。厚みのあるソフトレザーを使用しており、使うほどに味わいが深まるエイジングも楽しめる。型はハンドバッグ(3万4000円)、ショルダーバッグが2型(2万6000円、3万1000円)、ミニポシェット(2万1000円)の4種類。既に販売を開始しており、特にミニポシェットは近年のミニバッグの流行もあり、「モデルやスタイリストといった高感度な層からも好評を得ている」(同社)という。
同じく新シリーズの「ナフカ」は、触り心地の良いソフトレザーを使用し、やわらかなフォルムに仕上げた。ベーシックなデザインで日常的に使いやすく、発売以降、売上げは好調に推移している。トートバッグ(2万8500円)、ワンショルダー(2万9000円)、ツーウェイ(2万6000円)、ポシェット(2万3000円)の4型を揃える。
マルショウエンドウ「マンハッタナーズ」使いやすさを前面に シンプルなデザインの新作
マルショウエンドウは、画家の久下貴史氏が描く猫の絵画を使ったブランド「マンハッタナーズ」で、2月から5月中旬にかけて新作フェアを全国の百貨店で開催している。今シーズンは定番商品に加え、ワントーンでまとめたり、柄をポイント使いしたりなど、シンプルで使いやすいデザインの新作も打ち出す。コースターやスマートフォンリングなど値頃な小物も新たに投入し、様々な切り口から新客の獲得を目指す。
同社は猫を特集する雑誌「猫びより」3月号に広告を掲載。ナイロン地にワントーンでイラストをプリントした「シルエット」シリーズのトートバッグや、絵をファスナーの部分のみにプリントした「プリファ」シリーズのポーチを大きく打ち出した。同ブランドでは作品を全面に配した華やかなバッグが代表的だが、「ファンをさらに増やすためには、違う形のアプローチも必要だ」(同社)と考え、比較的ベーシックなデザインの新作を用意。シーンを選ばない使いやすさで訴求する。
シルエットシリーズは、トートバッグS(1万6000円)とL(1万8000円)の2型を揃え、プリファシリーズはポーチが4サイズで、3000~5300円。
新たにコースター、スマートフォンリングなども発売した。コースターは全5種類で各1200円、スマートフォンリングも全5種類で各1800円。どちらも値頃価格で気軽に購入しやすく、新客がブランドに触れるきっかけになることを狙う。同社ECサイトで2月1日に新作の販売を始めており、売行きは好調だという。
無論新客だけでなく、熱心な顧客が楽しめる要素も仕掛ける。新作フェアの会場では、一定金額以上買い上げた客には、オリジナル柄のマスキングテープをプレゼントする。テープは10種類を用意。実店舗で買い物をしたり、収集したりする楽しさを提供する。